AutoCAD

AutoCAD：世界標準CADソフトウェアの進化と市場

AutoCADは、オートデスク社が開発した、建築、土木、機械設計など幅広い分野で使用される汎用CADソフトウェアです。1982年のバージョン1.0発売以来、長きにわたり世界中の設計者やエンジニアに愛用されてきました。その普及には、オープンなデータフォーマットとAPI戦略が大きく貢献しています。

開発と戦略の変遷

AutoCADは、当初2D/3D両対応の汎用CADとして市場に投入されました。競合他社との差別化を図るため、独自のデータフォーマットであるDWG（非公開）と、中間フォーマットであるDXF（公開）を採用。さらに、AutoLISP、ObjectARX(C++)、VB、.NETなど、多様なAPIを公開することで、サードパーティによるアプリケーション開発を促進しました。この戦略は成功し、AutoCADを基盤とした様々なアプリケーションが開発・普及することで、AutoCAD自体の市場シェアも拡大していきました。

しかし、1990年代後半以降は、戦略転換を図ります。1997年のSoftdesk（建築系アプリケーションソフト会社）買収を皮切りに、多くのサードパーティ企業を買収し、建築、電気、機械、設備設計など、業種特化型の専用CAD製品群を展開するようになりました。そして2016年には、ビジネスモデルを従来の永久ライセンスからサブスクリプション型へと大きく転換。クラウドサービスへの対応も進め、現代のソフトウェアビジネスモデルに適応しています。

2018年には、AutoCAD本体に、それまで個別に提供されていたAutoCAD Architecture、AutoCAD Electrical、AutoCAD Mechanical、AutoCAD MEP、AutoCAD Map 3D、AutoCAD Plant 3D、AutoCAD Raster Designといった派生製品を統合。より統合的な設計環境を提供する方向へ舵を切りました。ただし、AutoCAD P&IDは廃止され、AutoCAD Civil 3DはAutodesk Civil 3Dへと名称変更されました。2021年には、AutoCAD日本版がAutoCAD Plusへと改名され、業種別ツールセットが整理されました。

関連製品と互換製品

AutoCADには、機能を絞ったAutoCAD LTなども存在します。過去には、AutoCAD LTとInventor LTを組み合わせたInventor LT Suiteも提供されていましたが、現在は廃止されています。

AutoCADの互換製品も数多く存在します。初期の代表例としては、Visio社（後にマイクロソフトに買収）が販売したIntelliCAD98が挙げられます。IntelliCADはオープンソース化され、世界中の企業がそれをベースに独自製品を開発しました。日本では、インテリジャパンのIJ IntelliCAD、コストエレクトロニクスのCosmo IntelliCAD、サイバーデザインラボのXcellicCADなどが登場しました。

IntelliCAD以外にも、ドイツのARES（旧FelixCAD）など、独自の技術で開発された互換CADがあります。多くの互換CADは、Open Design Allianceが提供する.dwg Toolsetを採用し、AutoCADデータの読み書きを可能にしています。ただし、近年の互換CADは、データ互換性だけでなく、コマンドや操作性の互換性も重視されるようになってきています。

2010年代以降、海外製の高機能な互換CADが日本市場に参入し、市場の認知度も向上しました。特に、Autodesk社がAutoCADの永久ライセンス販売を終了した2017年以降は、互換CADへの注目度が急速に高まりました。現在では、IJCAD、AresCAD、BricsCAD、ZWCAD、Draftsightなど、様々な互換CADが利用可能です。これらの製品は、コストを抑えたい企業や個人ユーザーにとって魅力的な選択肢となっています。

まとめ

AutoCADは、長年にわたる進化と戦略転換を経て、現在も世界標準のCADソフトウェアとしての地位を確立しています。そのオープンな戦略、そして多様な関連製品や互換製品の存在は、設計業界の多様なニーズに対応し、さらなる発展を促す力となっています。今後、クラウド技術やAI技術の活用など、さらなる進化が期待されます。

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