BL・プリンセス

プリンセス：ブリティッシュ・レイランドの挑戦と挫折

1975年から1984年まで、イギリスの自動車メーカー、ブリティッシュ・レイランド（BL）によって生産されたプリンセスは、その複雑な歴史と、成功と挫折が入り混じった道のりを物語るモデルです。当初はオースチン・モーリス18/22、そしてウーズレーという名前で発売されましたが、市場の反応や時代の変化に対応するため、二度もの名称変更と大規模なマイナーチェンジを経験することになります。

デザインとコンセプト

プリンセスの開発コードネームはADO71。ADO17の後継車として登場したこの車は、前輪駆動レイアウトを採用し、全長と全幅を拡大、全高を低くすることで、ADO17よりも一般的な乗用車らしいプロポーションを獲得しました。しかし、ハリス・マンによるデザインは、くさび形のウェッジシェイプで、賛否両論を巻き起こしました。英国では「ザ・ウェッジ」というニックネームで呼ばれ、スーパーカーを思わせるスタイルが特徴的でした。当初のデザインは5ドアハッチバックでしたが、市場の反応を考慮し、トランク付きの4ドアセダンとして発売されました。5ドアハッチバックモデルが登場したのは、7年後の1982年、オースチン・アンバサダーに名称変更された時です。このデザイン変更の歴史は、フロントとリアのデザインのアンバランスという、しばしば「別々のデザイナーが設計したようだ」と酷評された問題につながったと言われています。

エンジンと性能

エンジンとギアボックスはADO17と共通で、動力性能は穏やかでした。サスペンションには、アレグロと同様にハイドラガスサスペンションを採用し、シトロエンCXに匹敵する乗り心地を目指しました。このクラスではまだ一般的ではなかった前輪駆動レイアウトと、快適なシートによって、プリンセスは高い居住性と快適性を誇りました。これがプリンセスの最大のセールスポイントであり、発売当初は好調な販売を記録しました。

販売と衰退

しかし、BL製品全体に共通する品質問題や、1979年の第二次石油危機による中型車需要の減少により、プリンセスの販売は徐々に低迷していきます。1981年までの生産台数は224,942台にとどまり、満足な販売実績を達成することはできませんでした。日本市場への正規輸入は行われていませんでした。

多彩な名称とマイナーチェンジ

プリンセスは、その生涯を通じて様々な名称で呼ばれていました。

オースチン・モーリス・ウーズレー (1975年3月-9月): 発売当初は、オースチン、モーリス、ウーズレーの3つのブランド名で販売され、ヘッドライト形状やグリル、内装に違いがありました。エンジンはOHV4気筒1798ccのBシリーズとSOHC6気筒2226ccのEシリーズが用意されていました。
プリンセス (1975年9月-1978年): 6ヶ月後には、ブランド名の区別が廃止され、「プリンセス」という単一の名称になりました。1947年からオースチン、その後ヴァンデン・プラが生産した大型車の名を引き継いでいます。
プリンセス2 (1978年9月-1981年): 1978年のマイナーチェンジでプリンセス2へ。4気筒エンジンがOシリーズSOHC1695ccと1993ccへと変更されました。
オースチン・アンバサダー (1982年-1984年): 1982年には、大規模なマイナーチェンジと同時に「オースチン・アンバサダー」と改名されました。ボディ外板の大幅な変更、5ドアハッチバックへの変更、デザインのバランス改善などが行われました。しかし、ローバーSD1との競合もあり、1984年に生産終了となりました。

オーストラリアとニュージーランドでは、1975年以降も「オースチン・プリンセス」としてノックダウン生産されていました。

まとめ

プリンセスは、ブリティッシュ・レイランドの苦悩と時代の変化が凝縮されたモデルでした。その個性的なデザインと快適な乗り心地は評価されましたが、品質問題や市場の動向、社内での競合など、様々な要因が重なり、成功を収めることができませんでした。しかし、その歴史は、自動車史における一つの重要なエピソードとして記憶されています。

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