ハリス・マン

ハリス・マン：評価が分かれるイギリスの自動車デザイナー

ハリス・マン(1938年4月-2023年8月14日)は、20世紀後半のイギリス自動車業界において重要な役割を果たした、個性的な自動車デザイナーでした。彼のキャリアは、数々の成功作と、物議を醸すデザインの両面で知られています。

マンはロンドン生まれ。ウェストミンスターの技術学校卒業後、バス車体メーカーを経て、レイモンド・ローウィの事務所で研鑽を積みました。その後、ルーツ・グループ、フォードとキャリアを重ね、フォードでは初代エスコートやカプリのデザインに携わった経験が彼の土台となりました。

転機は、フォードのチーフデザイナー、ロイ・ヘインズと共にBMC(後のBLMC)に移籍した時でした。ヘインズの後押しもあり、マンはモーリス・マリーナのデザインを任され、本格的に自動車デザインの世界に足を踏み入れました。1970年には、わずか32歳にしてBLMC乗用車のデザイン責任者に就任。この当時、BLMCは経営混乱と労働争議に苦しんでおり、開発能力や品質管理は最悪の状態でした。

マンのBLMC時代は、オースチン・アレグロ、BLプリンセス、トライアンフTR7/8といった、同社の代表的なモデルのデザインに携わった時期と重なります。しかし、彼のデザインは、しばしば奇抜で、全体的なバランスに欠けるものと評されました。例えば、アレグロの四角いステアリングホイールは、たちまち不評を買って、すぐに丸型に戻されたほどです。また、彼はウェッジシェイプ（くさび形）のデザインを好んで用いましたが、ボディ全体のプロポーションやディテールへの配慮が不足していたという指摘もあります。これらのデザインは、当時のBLMCの品質問題と相まって、市場で必ずしも好意的に迎え入れられることはありませんでした。

マンのデザインは、後年になっても、その評価は高くありませんでした。モーリス・マリーナはジョルジェット・ジウジアーロの手によって大幅に修正されモーリス・イタルとして生まれ変わり、プリンセスもデザインの大幅な変更を経てオースチン・アンバサダーとなりました。トライアンフTR7も、ルーフ部分の改善が施されました。これらの事例からも、彼のデザインが、どれだけ後世のデザイナーによって修正されたかが分かります。

BLMCの後任チーフスタイリストとなったイアン・ビーチは、デビッド・ベイチュの助言を得ながら、ローバー・メトロやオースチン・マエストロなど、新しいデザイン路線を打ち立てました。これは、マンのデザインに対する暗黙の批判と言えるかもしれません。

BLMC退職後はフリーランスのデザイナーとして活動し、1990年代にはローバー車のMG化（ZR、ZS、ZTへの再デザイン）にも携わりました。2023年8月14日、85歳で死去しました。

ハリス・マンの功績は、彼が当時の自動車業界の状況の中で、独自のスタイルを追求し続けた点にあります。彼のデザインは必ずしも成功したとは言えませんが、その奇抜さや、時代を先取りしたデザインは、後世のデザイナーに影響を与えたことは間違いありません。彼のデザインに対する評価は今もなお分かれるところですが、20世紀後半のイギリス自動車デザイン史において、無視できない存在であることは確かでしょう。

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