BMC・"ファリーナ"・サルーン

BMC ファリーナ・サルーン：成功と失敗の物語

ブリティッシュ・モーター・コーポレーション（BMC）は、1958年以降、著名なイタリア人自動車デザイナー、バッティスタ・ファリーナ氏を起用して開発した3種類の乗用車を製造しました。これらは「ファリーナ・サルーン」として広く知られていますが、公式名称ではありません。特にイギリスではこの通称が定着しています。

ファリーナ・サルーンは、大きく3つのモデル群に分類できます。

1. オースチン A40 (1958-1967): ハッチバックの夜明け

最初のモデルは、1958年に登場したオースチンA40です。特徴的な上下2分割式のテールゲートは、今日のハッチバック車の原型と見なされており、自動車史において重要な位置を占めています。A40は1967年まで生産され、比較的高い評価を得ました。

2. 中型サルーン (1958-1971): バッジエンジニアリングの限界

同じく1958年には、中型サルーンが発売されました。BMCの当時のバッジエンジニアリング政策に基づき、モーリス・オックスフォードV、MGマグネットMk III、オースチンA55ケンブリッジMk II、ウーズレー15/60、ライレー4/68など、複数のブランド名で販売されました。エンジンチューニングや内装はブランドごとに異なっていました。初期モデルは大きなテールフィンが特徴でしたが、1961年のマイナーチェンジでデザインが修正され、車名もモーリス・オックスフォードV、MGマグネットMk IV、オースチンA60ケンブリッジ、ウーズレー16/60、ライレー4/72に変更されました。生産期間は1968年まででしたが、モーリス・オックスフォードVは1971年まで生産が続けられました。

3. 大型サルーン (1959-1968): 直列6気筒エンジンの搭載

1959年には、直列6気筒エンジンを搭載した大型サルーンが登場しました。オースチンA99ウエストミンスター、ウーズレー6/99、バンデン・プラ・プリンセス3リッターの3つのブランド名で販売されました。1961年にはモデルチェンジが行われ、オースチンA110ウエストミンスター、ウーズレー6/110、バンデン・プラ・プリンセス3リッターマークIIとなり、1968年まで生産されました。

デザインと市場での評価：成功と失敗の両面

A40は比較的好評でしたが、他のモデルについては、ファリーナのデザインにもかかわらず、必ずしも成功とは言えませんでした。当時の英国車の旧式なシャシー設計や生産技術、各ブランドにおける独自性の欠如などが、イタリアンデザインの新鮮さを損ない、不評につながったと言われています。ある説によると、ファリーナは中型サルーンのデザイン案として、より洗練されたデザインを提案していましたが、意図的に不出来なデザインを提示し、本命デザインを引き立てるための「当て馬」としていたものが採用されてしまった、という話も伝わっています。

ファリーナ・サルーンの不評は、1960年代以降に顕著になった英国車販売の低迷の一因と見なされています。BMCとBLMCの合併、ルーツグループのクライスラーによる買収といった経営上の混乱、労働争議による品質低下、保守的な設計と魅力に欠けるデザインなどが重なり、英国車の衰退を加速させました。中型ファリーナ・サルーンは、こうした時代の流れを象徴するモデルと言えるでしょう。

総じて、ファリーナ・サルーンは、巨匠デザイナーによるデザインと、時代の転換期における英国自動車産業の苦悩を反映した、複雑な歴史を持つモデル群と言えるでしょう。

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