BMW・イセッタ

BMWイセッタ：戦後ドイツの空を彩った小さな巨人

BMWイセッタは、その愛らしいデザインと経済性から、戦後ドイツの復興期において国民車として親しまれたマイクロカーです。多くの人はBMWイセッタをドイツの車として認識していますが、そのルーツはイタリアにあります。イタリアのイソ社が開発したイソ・イセッタを、BMWがライセンス生産したモデルなのです。しかし、BMWによる生産台数は本家イソ社を大きく上回り、イセッタといえばBMWを思い浮かべる人が多いのも事実です。

1955年、BMWはイソ・イセッタをベースに、自社の二輪車R-25に搭載されていた245ccエンジンを搭載したイセッタ250を発表しました。その後、排気量を拡大したイセッタ300へとモデルチェンジ。さらに1957年には、車体を大型化し、通常の4輪配置としたBMW 600を発売しました。この600には582ccエンジンが搭載され、より快適な走行が可能となりました。これらのモデルを合わせると、約16万台という驚異的な販売台数を記録しました。

イセッタシリーズは、単に交通手段としてだけでなく、戦後ドイツの経済復興に大きく貢献しました。当時のドイツは、まだ経済的に困難な状況にありました。そんな中で、イセッタは庶民にとって手の届きやすい価格で、手軽に乗れる自動車として、人々の生活を支えました。そのコンパクトな車体は、狭い路地でも容易に走行でき、限られた駐車場でも問題なく駐車することができたのです。

また、イセッタは英国市場にも進出しており、英国向けには右ハンドル仕様や、英国の3輪車の軽減税制を利用するための3輪モデルも生産されました。これはBMWがイソ社からライセンスを取得し、英国のIsetta of Great Britain社が製造したものです。このように、イセッタはドイツのみならず、世界各国で人々の生活に溶け込みました。

BMWイセッタは、その独特の卵型デザインと前部ドア、そしてコンパクトなボディが特徴です。一見すると、自動車というよりも、巨大な卵のような印象を受けます。しかし、その見た目とは裏腹に、実用的な設計が施され、多くの人の生活を支えました。その存在感は、戦後ドイツの経済復興だけでなく、BMW社自身の経営再建にも大きく貢献したと言えます。今日、クラシックカーとしてコレクターから高く評価されているBMWイセッタは、単なる自動車を超えた、一つの時代を象徴する存在と言えるでしょう。

BMWイセッタは、戦後の経済的困難の中で生まれた、画期的なマイクロカーでした。その経済性と実用性から、多くの人々に愛され、ドイツの復興を支えた重要な役割を果たしたのです。今日のBMWの礎を築いたモデルとして、その歴史的意義は非常に大きいと言えるでしょう。

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