BT'63

『BT'63』：父と息子の物語、そして1963年の記憶

池井戸潤の長編小説『BT'63』は、2000年から2001年にかけて連載され、2003年に単行本、2006年には講談社文庫版、そして2023年には新装版が刊行された感動の長編小説です。著者の池井戸潤自身も「いつも心の中にある大切な小説」と語る本作は、1963年と2000年という異なる時代を舞台に、父と息子、そして彼らを取り巻く人々の物語を丁寧に紡ぎ出しています。

物語は、2000年、心の病で入院していた主人公・大間木琢磨から始まります。離婚後、実家に引き取られていた荷物を整理していた琢磨は、亡くなった父・史郎の遺品の中から、派手なホテルボーイ風の制服を発見します。その制服を着た父の姿が、オレンジ色のボンネットトラックを背景に、彼の脳裏に浮かび上がります。

この出来事をきっかけに、琢磨は鮮明な夢を見るようになります。夢の中で彼は、大型トラックが並ぶターミナル、緑色のスポーツカーに乗った女性、そして「三つ葉銀行」の行員といった、現実離れした光景を目撃します。しかし、それらは単なる幻想ではなく、彼の父・史郎が1963年に実際に体験した出来事であったことが判明します。

1963年、相馬運送で経理を担当していた史郎は、銀行からの融資交渉に苦戦していました。そんな中、彼は夫の暴力から逃れてきた竹中鏡子と出会い、彼女の協力を得ながら、新たな事業「宅配」のアイデアを形にしていきます。

一方、史郎は相馬運送のボンネットトラック「BT21」の運行状況に不審を抱き、密かにその行方を追跡します。そして、そこで明らかになるのは、闇社会との繋がり、そして会社内部の腐敗といった、予想だにしなかった真実でした。

琢磨は、夢の中に現れた断片的な記憶を頼りに、父の足跡を辿っていきます。1963年の相馬運送、そしてそこで働く人々との出会いを経て、彼は次第に父の姿、そして自身の過去へと迫っていくのです。

小説は、2000年の琢磨と1963年の史郎の物語が交互に描かれる構成となっており、二つの時代を行き来することで、父子の絆、そして時代の変化、社会の闇といったテーマが深く掘り下げられています。

登場人物たちは、それぞれに複雑な事情を抱え、苦悩しながらも懸命に生きています。琢磨の元妻・亜美、琢磨を支える母親・良枝、そして史郎を支えた鏡子、可奈子。1963年の相馬運送の人々、融資担当の桜庭、社長の相馬平八、そして様々な思惑を抱く従業員たち。

彼らの生き様を通して、読者は時代を超えた普遍的なテーマ、家族、愛、そして人生の意味について考えさせられます。

『BT'63』は、単なるミステリー小説にとどまらず、時代劇、人間ドラマ、そして家族の物語が複雑に絡み合った、奥深い作品と言えるでしょう。過去を乗り越え、未来に向かって歩み出す父と息子の姿は、多くの読者の心を深く揺さぶるはずです。

主要登場人物

大間木琢磨 (2000年): 心の病を患い、離婚、失業とどん底を経験するも、父の過去を追うことで再生への道を歩み始める主人公。
大間木史郎 (1963年): 琢磨の父。相馬運送で働き、新たな事業に挑む真面目な父親。
竹中鏡子 (1963年): 夫の暴力から逃れ、史郎と出会い、彼の事業を支える重要な女性。
桜庭厚 (1963年、2000年): 三つ葉銀行の行員。琢磨に協力する重要な人物。

その他登場人物: 小説には、上記の主要人物以外にも、相馬運送の従業員、琢磨の周囲の人物、そして1963年の社会情勢を反映した様々な人物が登場し、物語に深みを与えています。

書籍情報

単行本：朝日新聞出版、2003年6月13日
文庫[[本]]：講談社文庫、2006年6月15日
文庫[[本]]（新装版）：講談社文庫、2023年5月16日
オーディオブック：Audible、2023年配信

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