BibTeX

BibTeX（ビブテフ、ビブテキスト）とは

BibTeXは、主に学術文書において、参考文献の一覧を効率的に作成・整形するために開発されたツールです。1985年にオーレン・パタシュニクとレスリー・ランポートによって生み出されました。その最大の特徴は、参考文献に関するデータ（著者名、論文タイトル、発表年など）と、それらをどのように表示するかというスタイル定義を分離している点にあります。この分離により、一度書誌情報ファイルを準備すれば、異なる学術雑誌の投稿規程や参考文献スタイル（APA、MLA、Chicagoなど）に合わせて、容易に表示形式を切り替えることができます。この「コンテンツとスタイルの分離」という考え方は、LaTeXはもちろん、ウェブ開発におけるHTMLとCSSの関係にも通じる概念です。

BibTeXを基に、日本語の文献情報を扱えるように拡張されたものがJBibTeXです。日本語を含む文献情報を処理する際には、通常、BibTeXではなくJBibTeXを利用する必要があります。

書誌情報ファイル（.bib）

BibTeXは、参考文献の詳細な情報を、表示形式に依存しないテキスト形式のファイルに格納します。このファイルは通常、「.bib」という拡張子を持ちます。各書誌情報は、論文、書籍、学位論文といった「エントリ種別」によって分類されます。ファイル内では、それぞれの書誌情報が特定の「キー」に関連付けられており、このキーを用いて文書本文中から該当文献を引用参照します。

書誌情報エントリは、以下のような構造を持っています。

bibtex
@エントリ種別{参照キー,
必須項目1 = "値",
必須項目2 = "値",
オプション項目1 = "値",
...
}

「参照キー」は、その書誌を一意に識別するためのラベルであり、文書内で引用する際に使用されます。キーの後に続くのは、その文献に関する詳細な情報項目（フィールド）です。標準的なデータ項目として、`author`（著者）、`title`（タイトル）、`year`（年）、`journal`（雑誌）、`publisher`（出版社）などがあります。エントリ種別によって、必須となる項目とオプションの項目が異なります。

主なエントリ種別と項目例

BibTeXで定義されている主なエントリ種別には以下のようなものがあります。

`article`：雑誌論文 (必須: author, title, journal, year)
`book`：書籍 (必須: author/editor, title, publisher, year)
`inproceedings`：会議論文集の一論文 (必須: author, title, booktitle, year)
`phdthesis`：博士学位論文 (必須: author, title, school, year)
`misc`：その他のもの (必須: 無し)

各エントリ種別には、上記以外にも多数のオプション項目が存在し、文献の詳細を記述できます。

書誌スタイルファイル（.bst）

参考文献の表示形式は、「書誌スタイルファイル」によって定義されます。このファイルは通常、「.bst」という拡張子を持ちます。スタイルファイルには、BibTeX独自のシンプルなスタックベースのプログラミング言語で、各エントリ種別の情報をどのように並べ、どのような句読点を挿入し、どの項目を省略するかなどが記述されています。

LaTeX文書中で`\bibliographystyle{スタイル名}`コマンドを使ってスタイルファイルを指定することで、BibTeXツールは指定されたスタイルファイルの内容に従い、.bibファイルから必要な書誌情報を読み込み、LaTeXが参考文献リストとして整形するためのコマンド列を生成します。一般的なスタイルファイルとして`plain`や`abbrv`などがあります。独自のスタイルファイルは、`latex makebst`コマンドなどのツールを使って対話的に作成することも可能です。

BibTeXコマンドの動作

LaTeX文書中にBibTeXを使って参考文献リストを生成するには、通常、コンパイルを複数回行う必要があります。一般的な手順は以下の通りです。

1. latex（またはpdflatexなど）コマンドを実行：LaTeX文書を一度コンパイルし、引用キーなどの情報（.auxファイルに書き出される）を収集します。この時点では参考文献リストは未定義として警告が出ます。
2. bibtexコマンドを実行：1で収集した引用情報と、指定された.bibファイル、.bstファイルを用いて、参考文献リストを整形するためのLaTeXコマンド列（.bblファイル）を生成します。
3. latexコマンドを再度実行：2で生成された.bblファイルを読み込み、文書中に参考文献リストを配置・整形します。この時点でもまだ参照情報が解決されていない場合があります。
4. latexコマンドをもう一度実行：3で配置された参考文献リストの番号などが本文中の引用箇所に正しく反映されます。これで最終的な出力が得られます。

引用の追加や削除を行った場合は、これらの手順を繰り返して文書を更新する必要があります。

特殊な整形処理

BibTeXスタイルファイルは、参考文献リストの出力において様々な整形処理を行います。

著者名の整形: 「von」「van」のような姓の接頭辞や、「Jr.」「Sr.」といった接尾辞は、スタイルによって自動的に処理されることがあります。複数の単語からなる姓は、カンマを用いて「姓, 名ミドルネーム」の形式で指定することで、正しく認識させることが可能です。
相互参照: `crossref`フィールドを用いることで、ある文献エントリ内で別の文献エントリを参照し、情報を共有することができます。例えば、特定の会議論文集（`proceedings`エントリ）を参照し、その中の個別の論文（`inproceedings`エントリ）で`crossref`を使って会議論文集のエントリを参照すると、論文集に関する情報（タイトル、年など）を重複して入力することなく利用できます。

これらの機能により、大量の参考文献を含む文書でも、手作業による整形の手間を大幅に削減し、統一性のとれた高品質な文献リストを効率的に作成できるのがBibTeXの大きな利点です。