CE-7.5

CE-7.5エンジン

CE-7.5は、インド宇宙研究機関（ISRO）が独自に開発した高性能な極低温ロケットエンジンです。推進剤として極低温の液体水素と液体酸素を使用し、主にISROの主力打ち上げ機であるGSLV Mk IIロケットの第3段エンジンとして採用されています。このエンジンの開発は、インドが宇宙への自立的なアクセスを確立するための重要なステップであり、極低温上段エンジン開発計画（Cryogenic Upper Stage Project, CUSP）の一環として進められました。

かつてGSLV Mk Iロケットの第3段には、ロシア製のKVD-1M（RD-56M）エンジンが使用されていましたが、CE-7.5はこの輸入エンジンを国産エンジンに置き換える目的で開発されました。これにより、インドは自国の技術力のみで静止衛星などの大型ペイロードを軌道へ投入する能力を獲得しました。

技術的な特徴

CE-7.5エンジンは、技術的に高度な再生冷却式推力可変二段燃焼サイクルエンジンです。その主要な仕様諸元は以下の通りです。

運転サイクル: 高効率な二段燃焼サイクルを採用。
推進剤: 液体酸素（LOX）と液体水素（LH2）の組み合わせ。
最大推力 (真空中): 75 kN (約7,600 kgf)を発生。
運転推力帯域: GSLV Mk II D5ミッションで実証された範囲は73.55 kNから82 kNの間。
燃焼室圧力 (定格): 58 bar (5.8 MPa)という高い圧力。
推進剤混合比 (酸化剤/燃料 重量比): 5.05。
比推力: 真空中において454 ± 3 秒 (約4.452 ± 0.029 km/s) という高い効率を実現。
エンジン燃焼時間 (定格): 最長720秒間の連続燃焼が可能。
制御システム: 推力制御と混合比制御のための独立した2系統の調整機構を備える。
推力偏向: 2軸の操向ジンバルにより、機体の姿勢制御を行う。

開発の歩み

CE-7.5の開発は、1994年に極低温上段計画が正式にスタートしたことから始まりました。長年の研究開発と地上試験を経て、2008年にはエンジンの飛行受領燃焼試験を成功裏に完了させました。この段階で、初の実用打ち上げに向け、第3段の推進剤タンクや構造体、推進剤供給配管などと組み合わされました。

しかし、CE-7.5エンジンを搭載した最初のGSLV Mk IIロケット（D3打ち上げ機）による打ち上げ（2010年4月15日）は、予期せぬエンジンの不調により残念ながら失敗に終わりました。この失敗を受けて、ISROはエンジンの徹底的な調査と改良を実施しました。

困難を乗り越えるための努力の結果、2013年3月27日には真空中での燃焼試験に成功し、エンジンの信頼性が確認されました。これにより、CE-7.5はGSLV Mk IIロケットの第3段として使用が承認され、次回の打ち上げでの確実な作動が期待されました。

そして2014年1月5日、GSLV D5ミッションにおいて、CE-7.5エンジンは設計通りの性能を発揮し、搭載していたGSAT-14人工衛星を無事に静止トランスファ軌道へ投入することに成功しました。この成功は、インドが自国開発の極低温エンジンによる実用的な打ち上げ能力を獲得した歴史的な瞬間となりました。

搭載機と役割

CE-7.5エンジンは、ISROの静止衛星打ち上げロケットであるGSLV Mk IIの第3段として不可欠な役割を果たしています。ロケットの最終加速段階を担い、人工衛星を目標とする軌道、特に静止トランスファ軌道へ投入するために必要な高い速度と正確な制御を提供します。ロシア製エンジンの代替として、インドの宇宙開発の自立性と静止衛星打ち上げ能力の向上に大きく貢献しています。

もう一度検索