COZY

山下達郎『COZY』：7年の沈黙を破った、珠玉のオリジナルアルバム

1998年8月26日、山下達郎の7年ぶりとなるオリジナルアルバム『COZY』がリリースされました。前作『ARTISAN』から実に7年の歳月を経て発表された本作は、山下達郎の純粋なスタジオアルバムとしては、当時、収録曲数と収録時間が最多を誇る大作でした。

この7年間、山下達郎は様々な困難に直面していました。1996年には『Dreaming Boy』というオリジナルアルバムのリリースが予定されていましたが、完成度に満足できず頓挫。さらに、スタッフの入れ替わりや人間関係の摩擦、ワーナーミュージック・ジャパンの組織改編、制作費の問題、そして自社スタジオの閉鎖など、制作環境を取り巻く状況は決して恵まれたものではありませんでした。契約問題などのトラブルを抱えていた山下達郎自身も、体制の立て直しに時間を費やしていたのです。

こうした困難の中で、山下達郎は50曲以上の楽曲を制作。その中には数多くのCMソングも含まれていました。これらのCMソングは、一部がラジオ番組『サンデー・ソングブック』で紹介されたものの、ほとんどが未発表のままでした。ファンは音源化を待ち望んでおり、その期待に応えるかのように、『COZY』にはそれらのCMソングのフルバージョンが多く収録されることになります。

アルバムには、書き下ろし楽曲はもちろんのこと、TBSドラマ「先生知らないの？」主題歌「いつか晴れた日に」、NHK連続テレビ小説「ひまわり」主題歌「DREAMING GIRL」、キリンラガービールCMソング「ヘロン」など、話題のタイアップ曲が収録。さらに、加山雄三のカヴァー「BOOMERANG BABY」や、メリサ・マンチェスターとの共演作「STAND IN THE LIGHT –愛の灯（ともしび）–」など、バラエティに富んだ楽曲が聴きどころです。

特に注目すべきは、「氷のマニキュア」でしょう。この楽曲のギターソロは、レコーディングの最終段階で佐橋佳幸が担当。山下のイメージに合うテイクがなかなか録れず、収録を断念することも考えていたというエピソードは、完成度の高さを物語っています。

また、「DONUT SONG」はミスタードーナツのCMソングとして書き下ろされた楽曲で、歌詞には当時の店頭メニューが登場。渋谷公園通りを舞台にしたこの曲は、ミスタードーナツの店舗がなくなった現在、より一層夢想的・妄想的な魅力を放っています。

『COZY』は、発売から10日間で80万枚を出荷。購入者の30％以上が30歳以上の層だったという点も大きな話題となりました。小室サウンド全盛期やヴィジュアル系ロックバンドブームを経て、大人のサウンドが再評価された時代背景も、このアルバムの大ヒットに影響を与えたと言えるでしょう。「硝子の少年」の大ヒットを足掛かりに、山下達郎は自身の制作体制の立て直しを行い、音楽シーンに大きなインパクトを与えたのです。

初回限定盤には、ジャケットの人形を模した紙フィギュアが同梱され、クリスマス仕様のパッケージも発売されました。アナログ盤には、「BLOW ('98 REMIX)」が追加収録され、CDとは異なるペーパーフィギュアが封入されました。

『COZY』は、数々の困難を乗り越えて制作された、山下達郎のキャリアにおける重要な作品であり、音楽史に輝く名盤として、今もなお多くの音楽ファンを魅了し続けています。楽曲の一つ一つに込められたストーリー、そして完成度の高いサウンドは、聴く者に深い感動を与え続けるでしょう。

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