Come again

m-floの大ヒットシングル『come again』：2ステップと渋谷の記憶が織りなすサウンド

2001年1月17日にリリースされたm-floの9枚目のシングル『come again』は、日本の音楽シーンに大きな衝撃を与えた楽曲です。オリコンのm-floシングル売上ランキングでトップを記録するなど、商業的にも大きな成功を収め、グループを広く一般リスナーに知らしめるきっかけとなりました。

イギリス発祥の2ステップを取り入れた革新的なサウンド

『come again』は、当時イギリスで流行していたクラブミュージックのスタイルである2ステップを基調としています。m-floのトラック制作メンバーである☆Takuは、公式ウェブサイトでこの曲について「日本の歌謡曲の方程式を無視してつくった曲です」とコメントしており、その革新的な姿勢が伺えます。

楽曲のコード進行は、松任谷正隆氏もその斬新さに驚いたと語っており、日本の音楽界の常識を覆すような、独特の構成となっています。130BPMという平均的な2ステップのテンポでありながら、Aメロとサビで異なるドラムパターンを用いることで、楽曲にメリハリを与えています。Aメロでは32分音符を基調とした、65BPMとも解釈できるハーフテンポのリズムが用いられ、ティンバランドの影響も感じさせます。一方、サビでは2ステップらしいシャッフルビートへと移行し、VERBALのラップパートではさらにジャズドラマーを思わせるブレイクビーツや、シンプルなエレクトロヒップホップのリズムが加わるなど、多様なリズムが複雑に絡み合う、聴き応えのある楽曲となっています。

切ない初恋と渋谷のディスコ「ラスカラ」へのオマージュ

歌詞の内容は、レコチョクが掲載するCDジャーナルの楽曲解説によると、「つれない彼に愛想を尽かし、クラブで踊り明かして忘れようとする女性の気持ち」を歌ったものとされています。ボーカル担当のLISAは、サビに登場する「スカラ」という言葉について、渋谷に存在したディスコ「ラスカラ（LA・SCALA）」を指していると明かしています。かつて渋谷ジョイパックビル内に存在した同ディスコは、1992年にヒューマックスパビリオンへと姿を変えています。LISA自身のFacebookページでは、この「ラスカラ」で出会った男の子との切ない初恋について歌っていると説明しており、楽曲に個人的な経験が反映されていることがわかります。

シングルタイトル「come again」の由来は明らかになっていませんが、サイモン・レイノルズの著書『エナジー・フラッシュ』に記載されている「Two Steps Beyond」という箇所で"come again"という表現が使われていることが確認できます。このことから、タイトルは単なる偶然の一致の可能性も考えられます。

制作秘話とm-floメンバーの卓越した技量

『come again』の制作過程も興味深いものです。VERBALは、ドラムのみの状態で、テーマも告げられないまま、ラップパートの歌詞作成を依頼されたと語っています。☆TakuはBuzzFeedの記事で、ベースパートに当初はTR-909の音色を使用予定だったが、「苦肉の策」としてウッドベースの生演奏に置き換えたと明かしています。

批評家からは高い評価を得ており、imdkmはVERBALのラップについて、シャッフルのかかったアップテンポなビート上での日本語と英語を織り交ぜた巧みなリズムコントロールを称賛。LISAの歌唱についても、シャッフルの感覚を強調する16分音符を多用した譜割りを、ピッチを明晰に保ちながら2ステップのグルーヴの上に配置する高度な技術を評価し、楽曲全体を「2ステップ歌謡のポテンシャルを解放しきった名曲」と絶賛しています。

ミュージックビデオ、リミックスコンテスト、そしてその後

『come again』のミュージックビデオは、当時タレントだった内藤陽子が広尾を歩くシーンや、原宿の美容室での撮影の様子などが収められています。2009年にm-flo公式YouTubeチャンネルで公開され、2017年のONIGAWARAの「東京SUKI・SUKIストリート」のミュージックビデオでオマージュされているなど、現在でも影響を与え続けています。

2001年には、☆Takuの発案でリミックスコンテストが開催され、700件以上の応募作品の中から、境亜寿香による「come again [Tokyo Cafe Remix]」がグランプリに選ばれました。このリミックスは、リミックスアルバム『EXPO防衛ロボット GRAN SONIK』に収録されています。

その他、2001年のFMフェスティバルではCrystal Kayとの共演、読売ジャイアンツの寺内崇幸選手の登場曲としても使用されるなど、多様な場面で活躍しました。また、カネボウ化粧品「テスティモ」のCMソングにも起用され、多くのリスナーに愛される楽曲となりました。

『come again』は、2ステップという新しい音楽性と、日本の音楽シーンへの挑戦、そしてメンバーの卓越した技量、そして渋谷のディスコという時代背景が複雑に絡み合った、日本の音楽史において重要な楽曲の一つと言えるでしょう。

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