Cynthia Street

南沙織『Cynthia Street』

『Cynthia Street』（シンシア・ストリート）は、日本の歌手・南沙織さんが1975年6月21日にリリースした、通算11作目にあたるスタジオ録音盤です。このアルバムは、CBS・ソニーから発表されました。

特徴と制作背景

本作は、南沙織さんのキャリアにおいて極めてユニークな位置を占めています。それまでのアルバムとは異なり、既発シングル曲を一切収録していない唯一のスタジオ・アルバムである点が最大の特徴です。また、制作の場が日本のスタジオではなく、カリフォルニア州ロサンゼルスに移され、録音からカッティングまで全ての工程が現地で行われました。当時のLP帯には、「素晴らしいMUSIC PEOPLEと沙織（シンシア）との出逢い そして生まれた素晴らしいアルバム カリフォルニア・ロスアンゼルスで録音からカッティングまでのすべてを!!」というコピーが踊り、この海外での制作体制を強調していました。

異国の地でのレコーディングは、南さんにとって刺激的な経験となったようです。特に、英語の発音やアクセントについては、現地で厳しい指導があったと伝えられています。この挑戦的な取り組みが、アルバム全体のサウンドや雰囲気に影響を与えています。

楽曲構成

アルバムに収録された楽曲は、大きく二つのパートに分かれます。LP盤のA面にあたる前半5曲（1曲目から5曲目）は、作詞を安井かずみさん、作曲・編曲を筒美京平さんという、当時の日本の音楽シーンを代表する強力なコンビが手がけています。一方、B面にあたる後半（6曲目以降）は、アラン・オデイやジョージ・S・クリントンといった海外の作家陣による、主に英語詞の楽曲が並びます。このように、日米両方の作家による楽曲が収められている点も、本作の特色と言えるでしょう。

全10曲がオリジナル楽曲であり、特にA面冒頭の「20才の立場」から始まる5曲は、すべて安井・筒美コンビによる書下ろしです。B面の英語詞の楽曲群は、異国情緒あふれるサウンドでアルバムに多様性を加えています。なお、2曲目の「GET DOWN BABY」は、後にシングルカットが検討されていたという逸話も残されています。

タイトルとアートワーク

アルバムタイトルの『Cynthia Street』は、南沙織さんがアメリカ滞在中に偶然見つけた実在する通りの名前から採られました。そして、その通りの標識前で撮影された記念写真が、そのままアルバムのジャケット写真として採用されています。このストリートスナップのような自然な写真は、当時の南さんの等身大の魅力を捉えており、アルバムのパーソナルな雰囲気を際立たせています。

後世への展開と現在の入手方法

『Cynthia Street』は、1975年のLP発売後、何度かCD化されています。1997年7月21日には「CD選書」シリーズとして初めてCD化され、その後、2006年6月14日には発売35周年を記念したCD-BOX『Cynthia Premium』に、高音質マスターサウンドによる紙ジャケット仕様盤として収録されました。

『Cynthia Premium』盤には、オリジナル盤には未収録だった通算15枚目のシングル「想い出通り」とそのカップリング曲「ご無沙汰」が、ボーナス・トラックとして追加収録されています。これらの楽曲は、オリジナル・アルバム発売後のシングルでありながらも、同時期の南さんの音楽性を知る上で貴重な音源となっています。

現在、本作はCDパッケージとしては生産が中止されており、中古市場以外では入手が困難な状況です。しかし、多くの楽曲が主要な音楽配信サービスを通じて提供されており、手軽に楽しむことができるようになっています。

『Cynthia Street』は、シングルヒット曲に頼らず、海外での制作に挑戦するなど、当時の日本の歌謡曲としては画期的な試みが凝縮されたアルバムです。南沙織さんのアーティストとしての意欲と、日米の才能が出会って生まれたサウンドは、今も多くの音楽ファンに聴き継がれています。

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