DDLJ 勇者は花嫁を奪う

『DDLJ 勇者は花嫁を奪う』：インド映画史に残るロマンティックコメディ

1995年10月にインドで公開されたヒンディー語映画『Dilwale Dulhania Le Jayenge』は、瞬く間に観客の心を掴み、インド映画界に大きな足跡を残しました。日本では『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦』のタイトルで劇場公開され、頭文字を取った略称「DDLJ」としても広く知られています。この作品は公開されるや否や爆発的なヒットを記録し、1990年代においてインド国内で第2位という驚異的な興行収益を上げました。特に、ムンバイにあるマラタ・マンディル映画館では、2015年2月19日に上映を終えるまで、1009週にも及ぶ前代未聞のロングラン上映を達成し、インド映画史上最長の記録として語り継がれています。

本作の成功は、主演を務めたシャー・ルク・カーンとカジョールのキャリアを決定づけ、彼らを「黄金コンビ」と称される揺るぎない存在へと押し上げました。二人はこの後も数々の作品で共演し、特に1998年の『Kuch Kuch Hota Hai』は国内外で絶大な人気を博し、本作と同様にインドの主要な映画賞を席巻しています。

監督は、当時わずか23歳だったアディティヤ・チョープラー。本作が彼の監督デビュー作でありながら、その才能を鮮烈に印象づけました。彼は本作によって、監督としてインド映画史における確固たる地位を築きましたが、その後は主に製作者や脚本家として活躍しており、監督としてメガホンを取ったのは、本作を含め『Mohabbatein』（2000年）、『Rab Ne Bana Di Jodi』（2008年）のわずか3作品に留まっています。また、本作は映画評論家スティーヴン・ジェイ・シュナイダーが選出した『死ぬまでに観たい映画1001本』にも名を連ねています。

物語：伝統と個性の間で揺れる愛の行方

物語はロンドンに暮らすインド人女性シムラン（カジョール）を中心に展開します。厳格なインドの価値観を重んじる父（アムリーシュ・プリー）によって、顔も知らない父の親友の息子との結婚を決められ、一族の故郷であるインドのパンジャーブ地方へ嫁ぐ日を間近に控えていました。結婚前に、最後となるかもしれない自由な時間として、父に許しを得て友人と共に1ヶ月間のヨーロッパ旅行に出かけます。そこで彼女が出会ったのが、自由奔放でやや軽薄に見える青年ラージ（シャー・ルク・カーン）でした。当初、ことあるごとに反発し合う二人でしたが、旅を共にするうちにシムランはラージの底にある誠実さや優しさに気づき始め、次第に惹かれていきます。しかし、シムランには既に決められた婚約者がいました。互いに惹かれ合いながらも、その思いに踏み込むことなく旅は終わりを迎えます。

ロンドンに戻ったシムランは、ラージこそが自分がずっと心の中で探し求めていた理想の相手であったことを改めて確信し、母（ファリーダー・ジャラール）にその胸の内を打ち明けます。偶然それを耳にした父は激怒し、「私の信頼を裏切ったのか！」と娘を厳しく叱責。翌日にはインドへ帰ることを強引に決定してしまいます。

一方、シムランへの思いを募らせていたラージは、彼女の家を訪ねますが、そこは既にもぬけの殻となっていました。しかし、玄関先に残されていたヨーロッパ旅行の思い出の品々に、シムランが自分に託した思いを感じ取ります。そして、愛する花嫁を取り戻すため、ラージは単身インドへと旅立つのです。伝統的な家族の絆や親の決定を重んじるインド社会において、個人の選択と真実の愛をどのように貫くのかが物語の大きなテーマとなっています。

キャストとスタッフ

ラージ: シャー・ルク・カーン
シムラン: カジョール
シムランの父: アムリーシュ・プリー
シムランの母: ファリーダー・ジャラール
ラージの父: アヌパム・ケール

監督・脚本: アディティヤ・チョープラー
製作: ヤシュ・チョープラー
音楽: ジャティン=ラリト

作品を彩るエピソード

本作には、数々の興味深いエピソードが伝えられています。シムランの厳格な父親役を演じた名優アムリーシュ・プリーの自伝には、当時まだ経験の浅かった監督アディティヤ・チョープラーが彼の自宅を訪れ、数時間かけて熱心に脚本を語りながら出演交渉を行ったという逸話が紹介されており、監督がこのキャスティングにいかに力を入れていたかがうかがえます。また、作品のタイトルにもなっている「Le Jayenge, Le Jayenge」というフレーズは、1974年の映画『Chor Machaye Shor』の挿入歌として広く知られていたもので、インドの人々には馴染み深いメロディーです。このタイトルは、アヌパム・ケールの妻で女優のキロン・ケールが提案したとも言われています。ラージの学生時代の友人役で出演しているカラン・ジョーハルは、その後シャー・ルク・カーン主演で数々のヒット作を生み出す監督となりますが、彼の初監督作品『Kuch Kuch Hota Hai』が記録的な成功を収めたことは、アディティヤ・チョープラーのデビュー作の成功と共通する点です。さらに、当初アディティヤ監督はラージ役にアメリカの俳優トム・クルーズを起用することを構想していましたが、プロデューサーである父ヤシュ・チョープラーの反対により実現しなかったという驚きのエピソードもあります。長年にわたり多くの観客に愛され続けている本作は、後続の作品にも影響を与えており、特にクライマックス近くで、走り出した列車からラージが手を差し伸べ、シムランがその手を取って飛び乗る象徴的なシーンは、『Chennai Express』や『Jab We Met』といった他の多くのインド映画でオマージュとして再現されています。

『DDLJ 勇者は花嫁を奪う』は、単なるラブストーリーに留まらず、家族愛、親子の絆、そして自己のアイデンティティといった普遍的なテーマを描き出し、今なお多くの人々に感動を与え続けている不朽の作品です。

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