DF-1 (ミサイル)

DF-1 (東風1号) 短距離弾道ミサイル

DF-1（東風1号）は、中国が初期に開発した短距離弾道ミサイル（SRBM）です。このミサイルは、ソビエト連邦がドイツのV2ロケットを改良したR-2ミサイルのライセンス生産品として誕生しました。DF-1の開発と配備は、中国のミサイル技術発展における重要なステップとなりました。

開発の経緯

1956年5月26日、中国の中央軍事委員会は、国防部に第五研究院を設立し、弾道ミサイルの開発を命じました。当時の中国は弾道ミサイルの技術的な知識が不足しており、ソ連の支援が必要不可欠でした。1957年10月15日には中ソ新防衛技術協定が締結され、ソ連からの技術支援が開始されました。

1957年11月、第五研究院の下に第一分院（システムインテグレート、ミサイルエンジン研究開発担当）と第二分院（誘導システム研究開発担当）が設立されました。同年12月には、教育訓練のためソ連地上軍のミサイル大隊、R-2ミサイル2発、および発射装置が中国に到着しました。また、1958年1月からは、将来の弾道ミサイル部隊を率いる指揮官や技術者の育成が開始されました。

しかし、中ソ関係の悪化により、1958年4月にはソ連の技術者は帰国しました。ソ連から到着したR-2ミサイルは「1059」というコードネームで呼ばれることになりました。その後、R-2に関する設計図や製造・試験・発射に関する技術資料が中国に提供され、追加でR-2ミサイル12発が購入されました。

中国政府は、1959年10月1日の建国10周年までに1059の発射試験を実施することを望んでいましたが、任務の膨大さから遅延が生じました。ソ連製R-2ミサイルの発射試験は1960年9月に成功し、中国で製造された1059ミサイルの発射試験も同年11月5日に成功しました。1年後には、1059ミサイルの配備が開始され、1964年2月まで製造が続けられました。その後、1059型はDF-1（東風1号）と名称が変更されました。

技術的特徴

DF-1は、R-2ミサイルのライセンス生産品であるため、外形や寸法はオリジナルと同一です。単段式のミサイルであり、推進剤としてエタノール溶液、酸化剤として液体酸素を使用しています。エンジンには、R-2ミサイルが搭載するRD-100エンジンの改良型であるRD-101エンジンが搭載されています。推進剤の供給にはターボポンプが使用され、ターボポンプはV2ミサイルと同じく過酸化水素溶液の分解ガスを動力源とするヴァルター機関を搭載していますが、触媒は液体の過マンガン酸ナトリウム溶液から固体状の銀またはニッケル基合金に変更されています。

弾頭は分離式の高性能爆薬弾頭です。エンジン燃焼終了後、弾道飛行に移る際に弾頭が本体から分離されます。これにより、V2ミサイルのような一体式弾頭に比べて、大気抵抗による軌道乱れの影響が少なくなり、命中精度が向上します。

また、V2ミサイルでは外殻が構造体を担っていましたが、DF-1では推進剤タンク自体が構造体となっています。これにより、ミサイルの軽量化が実現しました。姿勢制御には、ジャイロスコープによる姿勢検出と、ジェットベーン制御と舵面制御を組み合わせたハイブリッド方式が採用されました。

制御装置はエンジンと下部酸化剤タンクの間に設置され、整備性が向上しました。

性能

DF-1はR-2のライセンス生産品であるため、外形・寸法はオリジナルと同様ですが、材料の品質や加工技術がオリジナルと同等であったかは不明です。射程は590km、ペイロードは950kgとされています。

命中精度に関しては、ジャイロセンサーの精密機械加工技術の程度が不明であるため、R-2ミサイルと同等か、それよりも低いと考えられます。R-2ミサイルの命中精度はCEP（半数必中半径）で約1,250mと推定されており、DF-1も同等かそれより悪化していると推測されます。

配備

DF-1ミサイルは1961年に配備が開始され、中国初の国産ミサイルであるDF-2の打ち上げ成功と同じ1964年に製造終了しました。後継機であるDF-2型の配備開始後、1966年9月15日頃にはDF-1は退役したとされています。

1964年10月16日に中国が原子爆弾の爆発実験に成功した際、弾道ミサイル部隊は4個連隊に拡大されました。当時、ミサイル部隊の編成はソ連の影響を強く受けており、ミサイル中隊を最小単位とする3単位制が採用されていたと考えられます。記録によると、1964年時点で中国の弾道ミサイル部隊は4個連隊であることから、DF-1ミサイルの発射台数は最低でも36基と推定されますが、これはあくまで推測であり、予備ミサイルの数は考慮されていません。

DF-1は、中国が自力でミサイルを開発する上で重要な基盤となったミサイルと言えるでしょう。

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