DF-21 (ミサイル)

DF-21ミサイル

DF-21は、中華人民共和国が開発し、中国人民解放軍ロケット軍が運用する、準中距離弾道ミサイル（MRBM）および対艦弾道ミサイル（ASBM）のファミリーです。これらのミサイルは、通常弾頭に加えて核弾頭も搭載可能な能力を持ちます。アメリカ国防総省では、このミサイルファミリーを「CSS-5」というコードネームで識別しています。

概要

その起源は、中国が潜水艦発射弾道ミサイル（SLBM）として開発を進めていたJL-1（巨浪-1）に遡ります。1970年代後半にJL-1の開発が本格化する中で、その技術を地上配備型に応用する形でDF-21の開発が始まりました。1980年代半ばには開発が完了したとされていますが、実際に部隊への配備が確認されたのは1990年代に入ってからのことでした。2000年代には、推定で60発から80発のミサイルが配備され、これらを運用するための発射基数は70基から90基程度であったと見られています。

主な派生型と配備

DF-21ファミリーは、その後の技術革新に伴い、いくつかの改良型が生み出されています。1990年代の中頃には、射程距離と命中精度が向上したDF-21A型が登場しました。さらに2000年代に入ると、射程を3000km以上に延伸し、精密誘導能力を高めたDF-21C型が開発されました。このDF-21C型を基にして、特に注目される対艦攻撃能力を持つDF-21D型が誕生しました。

DF-21シリーズの配備地域は広範囲にわたっており、中国国内の複数の省、例えば吉林省、遼寧省、江西省、安徽省、雲南省、青海省などに展開しているとされています。配備形態は多様であり、固定式のミサイルサイロに加え、自走可能な輸送起立発射機（TEL）に搭載されて、道路網を利用した移動式運用も行われています。この移動能力は、ミサイルの生存性を高める上で非常に重要です。発射準備期間も比較的短く、10分から15分程度で発射可能とされています。

対艦弾道ミサイル DF-21D

中でもDF-21D型は、世界初の対艦弾道ミサイル（ASBM）として、軍事戦略において大きな意味を持っています。「空母キラー」とも俗称されるこのミサイルは、特に台湾有事のようなシナリオにおいて、西太平洋に展開するアメリカ海軍の航空母艦などの主要な水上戦闘艦を遠距離から攻撃することを想定して開発されました。これは、敵対勢力による接近を阻止し、自国の周辺海域への立ち入りを拒否するという、中国の「接近阻止・領域拒否（A2/AD）」戦略の中核を成す能力の一つと考えられています。DF-21Dは、弾道ミサイルの高速かつ高高度からの落下軌道と、終末誘導システムを組み合わせることで、移動する艦船をも正確に捕捉・攻撃する能力を目指しています。その誘導には、超音速無人偵察機WZ-8（無偵-8）などの情報収集・ターゲティング手段が連携して用いられる可能性が指摘されています。WZ-8は戦略爆撃機H-6に搭載され、高高度・高速で目標情報を取得すると推測されています。DF-21Dの射程は約1,500km以上と見積もられており、西太平洋の広範なエリアがその攻撃範囲に含まれます。

DF-21Dの対艦能力を示すものとして、過去に行われた試射試験の事例が挙げられます。退役した053H級フリゲート「鎮江」を標的とした試験では、無効化された弾体（弾頭部分に破壊力を持たない試験用のもの）が使用されました。この試験において、弾体は艦橋部分に直撃し、その運動エネルギーだけで艦橋が完全に押しつぶされ、船体にもダメージが及んだと報告されています。この損傷状況から、DF-21Dがフリゲートのような比較的小さな目標に対しても高精度で命中できること、そして横方向からの突入ではなく、目標の直上から垂直に近い角度で突入し、下方向へ大きなダメージを与える可能性が示唆されています。

技術的特徴と仕様

DF-21シリーズは、固体燃料を使用する2段式ロケットエンジンを搭載しており、これにより迅速な発射準備が可能です。

主要な技術仕様は以下の通りです。

• - 射程: 基本型: 1,750 km以上、DF-21A: 2,150 km以上、DF-21C/D: 3000 km以上
• - 弾頭: 500 kT核弾頭1個（通常弾頭も搭載可能）
• - エンジン: 2段式固体燃料ロケット
• - 誘導システム: 慣性誘導システムおよび終末レーダー誘導
• - CEP (半数必中界): 300-400 m（改良型はより高精度）
• - 全長: 10.7 m
• - 直径: 1.4 m
• - 重量: 14,700 kg
• - ペイロード: 600 kg
• - 発射準備期間: 10-15分

国際的な動向

国際的な取引に関連する報道も存在します。過去にはサウジアラビアへのDF-21売却に関する報道があり、一部では2007年に購入が確認されたものの、後に中止されたとも伝えられています。代替として無人攻撃機の製造施設建設契約があったという報道や、2019年には中国の支援でサウジが弾道ミサイル製造施設を建設した可能性が報じられ、それが隠蔽されたという報道もありました。これらの事例は、DF-21ファミリーが単なる国内配備に留まらず、国際的な安全保障環境にも影響を及ぼしうる存在であることを示唆しています。

DF-21ファミリーは、その多様な能力、特にDF-21Dによる対艦攻撃能力を通じて、中国の軍事戦略において中心的な役割を果たしており、アジア太平洋地域の戦略バランスに重要な影響を与えています。

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