DISPENSATION

JIMSAKUの通算7作目となるアルバム『DISPENSATION』は、1996年11月21日にBMGビクターから発売されました。彼らにとって、この作品はレコード会社移籍後初めてのリリースとなり、新たなスタートを飾る一枚となりました。アルバムのタイトルである「DISPENSATION」には、「調剤」という意味が込められています。

このアルバムの最も注目すべき点は、プロデューサーとして角松敏生を迎えたことです。JIMSAKUのトレードマークである卓越した器楽曲に、角松独自の視点とアレンジが加わることで、それまでの彼らにはなかった「大人向け歌モノポップス」という側面が強く打ち出されました。神保彰による精密なドラミングと櫻井哲夫のグルーヴィーなベースプレイというJIMSAKUの核に、角松が緻密にプログラミングしたシンセサイザーによる自動演奏が重なり合い、独自のサウンドスケープが構築されています。

角松敏生は、全体のプロデュースに加えて、収録曲の制作にも深く関わりました。具体的には、8曲で作詞、共作を含む9曲で編曲を手掛けています。作曲は2曲に留まっていますが、その関与の幅広さがアルバム全体のサウンドデザインに大きく影響を与えています。

アルバムの歌モノ化に不可欠な存在となったのが、ゲストボーカルとして参加した伊藤恵子です。彼女は角松敏生のボーカル・プロジェクトVOCALANDのメンバーでもあり、本作では収録曲の半数にあたる7曲でボーカルを担当し、アルバムに新たな彩りを与えました。また、この作品にはJIMSAKUのアルバムとしては珍しく、角松自身がボーカルをとる楽曲も1曲収録されています。この角松ボーカル曲は、パーカッショニストの田中倫明と角松が共同で編曲を担当しています。

レコーディングには、当時角松が長万部太郎名義で本格的な活動を始めたバンド、AGHARTAも参加しています。参加ミュージシャンには、角松のこれまでの活動でバックバンドなどを務めてきた馴染みの顔ぶれが多く名を連ねていますが、ゲストとしてベースやドラムのプレイヤーは迎え入れられていません。これは、JIMSAKUの根幹である櫻井哲夫と神保彰のリズム隊のみで演奏するという、彼らのアイデンティティを強く打ち出す意図があったものと考えられます。

アルバムには、全14曲中5曲の短いインストゥルメンタル「Super Jingle」が収められています（I～V）。これらの曲は、編曲も含めて純粋にJIMSAKUの二人のみで制作された楽曲であり、それぞれの曲の終わりには主に櫻井哲夫による短い呟きが収録されており、アルバム全体にユーモアと遊び心を加えています。また、器楽曲「ISLAND」は角松敏生が編曲を手掛けており、プロデューサーとしての手腕が光る一曲です。

本作は、シングルカットされた「Make My Time / HARBOR FWY」と同時期に発売されており、これらの楽曲もアルバムに収録されています。

アルバム『DISPENSATION』は、発表当時から高い評価を得ています。例えば、音楽レビューサイトのCDジャーナルは、「CDの帯には「笑っちゃうほど上手な人たち」。これは本当。ご機嫌なテクニックとグルーヴが満載の角松敏生プロデュース作品である」と評しています。これは、JIMSAKUが誇る卓越した演奏技術と、角松敏生による緻密かつグルーヴィーなアレンジが見事に融合した結果と言えるでしょう。

『DISPENSATION』は、JIMSAKUがインストゥルメンタルユニットとしての基盤を保ちつつ、角松敏生のプロデュースによって歌モノの要素や洗練されたサウンドプロダクションを取り入れることで、彼らの音楽性を新たな段階へと押し上げた、まさに「調剤」のように様々な要素が絶妙なバランスでブレンドされた傑作と言えます。

もう一度検索