DNAトポイソメラーゼ

DNAトポイソメラーゼ

はじめに

DNAトポイソメラーゼ（DNA topoisomerases）は、DNAの立体構造（トポロジー）を変換する酵素群の総称です。DNAの二重らせん構造は、さらにねじれたり絡み合ったりすることで、様々な位相幾何学的な状態をとります。トポイソメラーゼは、DNAの二本鎖の一方または両方を一時的に切断し、他の鎖を通過させた後に再結合することで、これらのねじれや絡まりを解消・調節します。この機能は、DNAの複製、転写、修復、組換えなど、生命維持に不可欠な様々なプロセスにおいて、DNA構造に生じるひずみを解消するために必須です。増殖に必要な酵素であることから、抗がん剤や抗生物質の重要な分子標的ともなっています。

DNAのトポロジーとトポイソメラーゼの役割

DNAの二重らせんがさらにねじれると超らせん構造（正または負）が生じ、DNA分子にひずみが生じます。複製や転写、修復などでは、二重らせんが開かれ、その進行に伴い構造的なひずみが発生します。トポイソメラーゼは、こうしたひずみを解消することで、DNA代謝を円滑に進めます。DNA組換えやウイルスDNA組み込みにも不可欠です。

トポイソメラーゼの分類

DNAトポイソメラーゼは、反応機構に基づき、I型とII型に大別されます。これらはさらにIA, IB（I型）とIIA, IIB（II型）といったサブクラスに分けられます。生物種によって持つタイプが異なり、遺伝子の水平伝播も見られます。

I型トポイソメラーゼ

I型トポイソメラーゼは、DNA二本鎖の片方の鎖のみを切断し、その隙間をもう一方の鎖が通過することでねじれを変化させます。リンキング数は1だけ変化し、通常ATP不要です。主な役割は、複製や転写で生じる超らせんの緩和です。真核細胞のトポイソメラーゼI（IB型）や大腸菌のトポイソメラーゼI（IA型）などが含まれます。真核細胞のトポイソメラーゼIは抗がん剤（例: イリノテカン）の標的です。一部の細菌や古細菌には、ATP依存的に正の超らせんを導入する特殊なIA型であるリバースジャイレースが存在します。

II型トポイソメラーゼ

II型トポイソメラーゼは、DNA二本鎖両方を同時に切断し、間に別の二本鎖を通過させます。リンキング数は2だけ変化し、ATPが必要です。IIA型とIIB型に分けられます。

IIA型は広く保存されており、超らせん緩和に加え、DNA複製後の娘DNA間の絡まり（カテナン）の解消に不可欠です。真核細胞のトポイソメラーゼII（topo II）や細菌のトポイソメラーゼIV（topo IV）がカテナン解消を担います。真核生物のtopo IIは抗がん剤（例: エトポシド）の標的となります。多くの細菌が持つDNAジャイレースもIIA型で、負の超らせんを導入する機能があり、キノロン系抗生物質の標的です。IIB型は古細菌や植物などで見られます。減数分裂に関わるSpo11（IIB型に構造類似）は、再結合活性がないため通常トポイソメラーゼとは分類されません。

まとめ

DNAトポイソメラーゼは、DNAの立体構造を制御し、複製や転写といった生命活動の中核プロセスを支える必須酵素です。DNA代謝に伴う構造的なひずみを解消することで、遺伝情報の安定的な維持と利用を可能にしています。その重要性から、様々な薬剤開発において重要な標的となっています。

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