DNAポリメラーゼ

DNAポリメラーゼの概要

DNAポリメラーゼは、DNAの合成を行う酵素の総称であり、全ての生物に広く分布しています。この酵素は一本鎖の核酸を鋳型として、それに相補的なDNA鎖を合成します。主にDNAを鋳型とするDNA依存性DNAポリメラーゼ（EC 2.7.7.7）や、RNAを鋳型としてDNAを合成するRNA依存性DNAポリメラーゼ（EC 2.7.7.49）の二つの主要なタイプに分類されます。前者はDNAの複製や修復において重要な役割を果たし、後者は逆転写酵素として機能します。

機能と特性

DNAポリメラーゼは、合成中のDNA鎖の3'末端の水酸基に新しいヌクレオチドを付加することで、5'から3'の方向にDNA鎖を伸長させます。しかし、この酵素単独でDNA合成を開始することはできず、必ずプライマーが必要です。通常、DNA複製では、DNA依存性RNAポリメラーゼの一種であるDNAプライマーゼが短いRNA鎖を合成し、このRNAがプライマーとして機能します。PCRなどの実験手法では、約20塩基のオリゴDNAがプライマーとして用いられます。

DNAポリメラーゼの中にはエラー訂正機能が備わっているものもあります。この機能によって、間違った塩基対が認識されると、3'から5'方向のエキソヌクレアーゼ活性によって誤った塩基が除去され、合成が再開されます。これを校正と呼び、DNA合成の精度を向上させる重要なプロセスです。

多様な生物種においてDNAポリメラーゼの構造は保存されているものの、一部のウイルスには特異なDNAポリメラーゼが存在することもあります。レトロウイルスはRNAからDNAを合成する逆転写酵素を持っている点も注目されるべきです。

必須要素

DNAポリメラーゼによるDNA合成にはいくつかの必須要素があります。まず、OH基が必要であり、これはプライマーのないDNA合成が不可能であることを示しています。通常、RNAプライマーの3' OH基がこの役割を果たします。次に、デオキシヌクレオチド（基質）も必要で、これはDNAの合成材料としてだけでなく、次のヌクレオチドを取り込むためのOH基の供給という役割も果たします。サンガー法によるシークエンシングでは、dideoxyNTP (ddNTP) が3'のOH基を持たないため、添加された場所でDNAの伸長が停止します。

また、DNAポリメラーゼの機能にはマグネシウムイオンが通常必要です。これにより酵素が適切に機能するための条件が整います。

遺伝子ファミリー

DNAポリメラーゼは、生物種間の配列の類似性に基づいて、いくつかのファミリーに分類されています。これには、A、B、C、D、E、X、Y、RTの7つのファミリーが含まれます。

Family A

主にDNAの複製や修復に関与する酵素が含まれ、T7 DNAポリメラーゼやミトコンドリアのポリメラーゼγが知られています。

Family B

真核生物のDNAポリメラーゼα、δ、εなどが分類され、これらは複製開始、ラギング鎖、リーディング鎖の合成を担います。

Family C

細菌の染色体複製に関する酵素で、大腸菌のDNAポリメラーゼIIIが代表的です。

Family D

古細菌の複製系酵素で、まだ研究が不十分ですが、ラギング鎖の複製に関与しています。

Family E

古細菌から見つかったポリメラーゼで、現在のところほとんど研究がされていません。

Family X

真核生物におけるDNA修復に関与するポリメラーゼが含まれ、傷害塩基の修復や非相同末端結合に重要な役割を持っています。

Family Y

損傷を受けたDNAの複製を可能にする酵素群です。忠実度が低く、エラーを無視することで複製します。

Family RT

レトロウイルスや真核生物のテロメラーゼに属します。逆転写の役割を担っています。

典型的な組成

細菌には最大6種のDNAポリメラーゼがあり、古細菌には数種のポリメラーゼが見つかっています。また、真核生物には15以上のDNAポリメラーゼがありますが、これらは必ずしも全ての機能が解明されているわけではありません。それぞれのポリメラーゼは異なる機能を担い、細胞内でのDNAの複製と修復に寄与しています。

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