DOSプロンプト

DOSプロンプトとコマンドプロンプト：WindowsにおけるMS-DOS互換環境の変遷

Windows NT以前のWindowsでは、MS-DOS互換環境として「DOSプロンプト」が提供されていました。これは、MS-DOSの標準シェルであるCOMMAND.COMをベースとしたコマンドラインインタフェースです。ユーザーは、C:\>のようなプロンプトにコマンドを入力することで、システムを操作します。

Windows 9xシリーズでは、DOSプロンプトは、32ビットOSであるWindows 9xが16ビットのMS-DOSアプリケーションを実行するための重要な役割を果たしました。Windows 9xは、CPUの仮想86モードを利用して、DOSプロンプトごとに独立した仮想DOSマシン環境を作り出すことで、この互換性を確保していました。この仕組みにより、ユーザーは、Windows環境内でMS-DOSアプリケーションを実行することが可能になりました。しかし、この仮想化された環境は、MS-DOSアプリケーションとWindowsとの間の協調動作を複雑にする要因にもなり、安定性の問題も引き起こすことがありました。

一方で、Windows 9xには「MS-DOSモード」も存在しました。これは、Windowsを完全に終了して、直接MS-DOS環境を起動するモードです。MS-DOSモードでは、DOSプロンプトとは異なり、高い互換性を実現していましたが、マルチタスク環境やGUI環境は利用できませんでした。

NT系Windowsにおけるコマンドプロンプト

Windows NT以降のWindowsでは、OSのアーキテクチャが大きく変化しました。NT系Windowsは、NTカーネルを基盤としており、MS-DOS互換環境は、このカーネル上で動作するレイヤとして実装されています。そのため、Windows NT以降のMS-DOS互換環境は、Windows 9xのDOSプロンプトとは全く異なるものです。

NT系Windowsでは、`cmd.exe`というプログラムがコマンドプロンプトとして提供されています。これは、Windows NTネイティブアプリケーションであり、見た目こそCOMMAND.COMに似ていますが、機能や拡張性は大きく異なっています。`cmd.exe`は、コマンドラインインターフェースとしてだけでなく、端末ウィンドウとしても機能します。多くのコマンドや機能が追加・拡張されており、より高度なシステム管理やタスク実行を可能にしています。

OS/2におけるDOS互換環境

OS/2も、MS-DOSアプリケーションとの互換性を提供していました。OS/2 1.xでは「DOS互換ボックス」が、OS/2 2.0以降では「MVDM(Multi Virtual DOS Machine)」が、その役割を担っていました。これらの機能は、DOSプロンプトと同様に、MS-DOSアプリケーションの実行環境を提供します。OS/2 1.xのDOS互換ボックスでは、全画面表示またはウィンドウ表示を選択可能でした。OS/2 2.0以降のMVDMも同様に、全画面表示とウィンドウ表示の両方をサポートしていました。

さらに、OS/2には、`cmd.exe`と同様の機能を持つ「OS/2コマンドプロンプト」も存在しました。これは、端末ウィンドウ兼コマンドラインシェルであり、OS/2ネイティブアプリケーションとして動作します。

まとめ

DOSプロンプト、コマンドプロンプト、そしてOS/2におけるDOS互換環境は、異なるOSにおいて、MS-DOSアプリケーションとの互換性を提供するための重要な機能でした。しかし、その実装方法や機能は、OSのアーキテクチャや設計思想の違いによって大きく異なっています。Windows 9xのDOSプロンプトは、仮想化技術による互換性を実現した一方で、安定性の問題を抱えていました。一方、NT系Windowsのコマンドプロンプトは、ネイティブアプリケーションとして開発され、高い安定性と拡張性を備えています。OS/2のDOS互換環境も、独自の設計に基づいて実装されており、それぞれのOSの特徴を反映したものです。これらの違いを理解することで、各OSの動作原理や設計思想への理解が深まります。

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