De novo

de novo

「de novo」（デ・ノボ）という言葉は、元々ラテン語に由来し、「新たに」「再び」「ゼロから」といった意味合いを持っています。この基本的な概念は共通していますが、使用される専門分野によって具体的なニュアンスや対象とするプロセスが異なります。

各分野での使用例

生化学

生化学の領域では、比較的単純な前駆体物質から、複雑な構造を持つ最終産物が合成される経路を指して「de novo合成経路」または「de novo経路」と称されることがあります。これは、特定の分子が全く新しい一連の反応を経て細胞内で作り出されるプロセスを強調するものです。代表的な例としては、ヌクレオチド、コレステロール、セラミドなどの合成経路が挙げられます。これらの分子は、既存のより単純な構成要素を再利用したり修飾したりするのではなく、低分子の前駆体から多段階の酵素反応を経てゼロから構築されます。

医学

医学分野では、「de novo」は主に疾患や症状が「新たに」「初めて」発生した状況を説明する際に用いられます。例えば、「de novo cancer」とは、既存の良性腫瘍からの進行や特定の既知の遺伝的要因によらず、正常な組織から新たに発生したがんを指す場合があります。また、「de novo B型肝炎」は、過去に感染やワクチン接種の既往がなく、今回初めてB型肝炎ウイルスに感染し発症した場合などを意味します。

さらに、遺伝学の分野では「de novo変異」という言葉が使われます。これは、両親のどちらにも見られない遺伝子配列の変化が、子供の生殖細胞形成過程や受精後の初期発生段階で新たに生じたものを指します。de novo変異は、特定の遺伝性疾患の原因となることがあり、家族歴がないにも関わらず疾患を発症する場合の重要な要因となります。このように、医学における「de novo」は、原因が特定されるかどうかに関わらず、その事象が過去に存在しなかったという新規性を強調する文脈で広く使用されています。

計算化学

計算化学の領域では、「de novo」はしばしば「ab initio」（アブイニシオ）と類似した意味合いで用いられます。「ab initio」が経験的なパラメータや実験データに依らず、基本的な物理法則（多くは量子力学）のみに基づいて計算を行う手法を指すのに対し、「de novo」アプローチは、対象に関する既存の大きなデータセット、例えば構造データベースや相同性情報などに大きく依存せず、より基本的な情報や原理から出発して問題を解く手法を意味します。

具体例として、タンパク質構造予測の分野が挙げられます。伝統的な手法では、既知の類似構造（テンプレート）を利用して未知のタンパク質の構造を予測しますが、「de novoタンパク質構造予測」は、アミノ酸配列の情報のみ、あるいは最小限の物理化学的な原理に基づいて、三次元構造をゼロから構築しようとする試みです。このようなアプローチは、テンプレートが見つからない新しいタイプのタンパク質の構造予測に特に重要となります。

まとめ

このように、「de novo」はラテン語の「新たに」という意味を核としながらも、生化学における分子の新規合成、医学における疾患や変異の新規発生、計算化学における基本的な情報からのアプローチといった具合に、各学術分野の文脈に合わせて多様な「ゼロからの始まり」や「新規性」を表現するために用いられる言葉です。これらの異なる用法を理解することは、各分野の専門的な議論を把握する上で不可欠です。

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