EGFR

EGFR

「EGFR」という略語は、専門分野によって全く異なる二つの重要な概念を指すため、文脈に応じた正確な理解が必要です。代表的な二つの意味として、「上皮成長因子受容体」と「推定糸球体濾過量」があります。

1. 上皮成長因子受容体（epidermal growth factor receptor）

細胞の表面に存在するタンパク質の一種です。これは受容体型チロシンキナーゼファミリーに属しており、特定の分子である上皮成長因子（EGF）などがこの受容体に結合することで活性化されます。受容体が活性化されると、細胞の内部で様々なシグナル伝達経路が働き始めます。これらの信号は、細胞の増殖、分化、移動、生存といった生命活動の根幹に関わる重要なプロセスを調節しています。

正常な状態では、EGFRを介したシグナル伝達は細胞の成長や組織の修復において厳密に制御されています。しかし、多くのがん細胞では、EGFRの遺伝子に変異が生じたり、そのタンパク質が過剰に作られたりしています。これにより、EGFRが常に活性化された状態となり、細胞が無秩序に増殖する原因の一つとなります。このことから、EGFRはがんの発生や悪化に深く関与する分子として注目されています。

近年、このEGFRの異常な働きを特異的に阻害する薬剤（EGFR阻害剤）が開発され、特定のタイプのがん（特に肺がんなど）に対する分子標的薬として臨床で広く用いられています。EGFRの遺伝子変異の有無を調べることが、これらの薬剤が効果を示すかどうかを予測するために重要となっています。このように、上皮成長因子受容体としてのEGFRは、細胞生物学、分子生物学、そして特にがん医療の分野で非常に重要な分子です。

2. 推定糸球体濾過量（estimated glomerular filtration rate）

主に腎臓の機能、中でも血液を濾過する能力を示す指標です。腎臓には糸球体と呼ばれる小さなフィルターがあり、ここで血液中の老廃物や余分な水分が濾し取られ、尿が作られます。eGFRは、この糸球体が1分間にどのくらいの血液を濾過できるかを推測した値です。

この値は、通常、血液検査で測定されるクレアチニンやシスタチンCといった老廃物の濃度と、患者さんの年齢、性別、体格などの情報を用いて計算式によって算出されます。直接的に糸球体の濾過能力を測定することは難しいため、広くこの「推定」値が用いられています。

eGFRの値が高いほど腎機能は良好であり、値が低下するにつれて腎機能が低下していることを示します。eGFRは、慢性腎臓病（CKD）の診断やその進行度（ステージ）を判定する上で非常に重要な指標です。CKDは、自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的な健康診断などでeGFRを測定し、腎機能の状態を把握することが早期発見につながります。

eGFRが著しく低下すると、腎不全となり、人工透析や腎移植が必要となる場合があります。また、腎機能の低下は心血管疾患など他の病気のリスクも高めることが知られています。そのため、eGFRの値を知ることは、腎臓病だけでなく全身の健康状態を管理する上でも非常に重要です。

まとめ

以上のように、「EGFR」という略語は、細胞増殖の調節に関わる分子である「上皮成長因子受容体」と、腎臓の働きを示す指標である「推定糸球体濾過量」という、全く異なる分野で用いられる重要な言葉です。情報を正確に理解するためには、それがどちらの意味で使われているのか、文脈を注意深く判断する必要があります。

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