EMD SD90MAC形ディーゼル機関車

EMD SD90MAC：6000馬力の巨匠とその波乱に満ちた生涯

EMD SD90MACは、GM-EMD社が開発した電気式ディーゼル機関車です。その最大の特徴は、6000馬力（4470kW）という圧倒的な出力です。3軸台車によるC-C軸配置と、交流電動機による駆動方式を採用。運転席には衝撃吸収装置を備え、高い安全性を実現しています。車体側面には、SD80MACやSD70ACeなど同系列機と同様、大型ラジエーターが目を引きます。

開発と改良：Hエンジンの影と光

SD90MACは、兄弟機であるSD80MACとほぼ同時に、1995年に開発されました。当初は、新開発の16気筒Hエンジンを搭載する予定でしたが、技術的な問題により、最初の製造ロットではSD70MACと同じ16気筒710Gエンジン（4300馬力）を搭載せざるを得ませんでした。この初期型はSD90/43MACと呼ばれ、400両以上が製造されました。Hエンジンへの換装オプションも用意されましたが、信頼性への懸念から、実際にはほとんど利用されませんでした。

1996年、EMD社はついに改良された6000馬力のHエンジンを搭載したSD90MAC-Hを投入。フロントノーズのデザインも変更され、視認性が向上しました。しかし、この強力なエンジンは運用上の課題も持ち合わせていました。

低販売台数の謎：大型エンジンと信頼性

登場時は米国内で最強クラスの出力でしたが、SD90MACの販売台数は予想を大きく下回り、EMD社の試作機を含めても70両弱にとどまりました。その理由は、大型エンジンによる運用柔軟性の低さと、新型Hエンジンの信頼性不足にあります。大型エンジンは、故障時の影響が大きいため、鉄道会社、特に大規模な鉄道会社以外からは敬遠されたのです。

結果として、SD90MACはユニオン・パシフィック鉄道とカナディアン・パシフィック鉄道のみに導入されることとなりました。カナディアン・パシフィック鉄道向けは、Hエンジンへの移行後もSD90/43MAC仕様で製造されました。

SD89MAC：日の目を見なかった弟

EMD社は、SD90/43MACとは別に、Hエンジンを12気筒化し出力を4500馬力としたSD89MACを開発しました。しかし、これは試作機のみで終わっています。

EPA規制と中国輸出：新たな展開

2005年1月以降、アメリカ環境保護局(EPA)の排出ガス規制「Tier 2」により、SD90MACの新造は停止されました。しかし、中国からのHXN3型機関車（Hエンジン搭載）の発注を受け、EMD社は主要部品を輸出、大連機車車輛が2007年下半期より製造を開始、2008年から営業運転を開始しました。この中国向け機関車は、厳しいEPA規制にも適合していました。

まとめ：成功と挫折の狭間を歩んだ巨匠

EMD SD90MACは、その圧倒的なパワーと革新的な技術を誇りながらも、市場のニーズや技術的な課題に苦戦を強いられた機関車でした。その歴史は、技術開発における困難さと、市場の要求とのバランスの難しさを改めて教えてくれます。強力なパワーと個性的なデザイン、そして波瀾万丈な歴史を持つSD90MACは、鉄道史における重要な一ページを刻んでいます。

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