Ethernet Ring Protection Switching (ERPS)とは
Ethernet Ring Protection Switching(ERPS)は、ITU-T勧告G.8032で規定された、
イーサネットのリング型トポロジーにおける保護プロトコルです。このプロトコルの主な目的は、ネットワークループの発生を防止し、リンク障害発生時には迅速に通信を回復させることで、ネットワークの信頼性を向上させることです。
ERPSの基本概念
ERPSは、リング状に構成されたネットワークにおいて、以下の2つの基本原則に基づいて動作します。
1.
ループ回避: 通常時、リング内の特定のリンク(RPL: Ring Protection Link)をブロックし、ネットワークループの発生を防ぎます。RPLは通常はトラフィックが流れないように閉塞されており、障害発生時にのみ開放されます。
2.
FDB(Forwarding Database)の活用: イーサネットフレームの学習、転送、フィルタリングを行うためのFDBメカニズムを利用し、効率的なトラフィック転送を実現します。
リング構成とRPL
- - イーサネットリングは、複数のイーサネットノードがリング状に接続された構成です。
- - 各ノードは、隣接するノードと2つのリンクで接続されています。
- - RPLは、通常時にトラフィックが流れないように閉塞される特別なリンクです。
- - RPLの両端には、RPLオーナーノードとRPL隣接ノードと呼ばれる特別なノードが存在します。
- - RPLオーナーノードは、RPLの一端を閉塞し、障害発生時には閉塞を解除します。
- - RPL隣接ノードも、RPLの閉塞・解除に関与します。
障害時の動作
- - リンク障害が発生した場合、障害リンクに隣接するノードは、そのポートを閉塞すると同時に、R-APS(SF)メッセージをリング全体に送信します。
- - R-APS(SF)メッセージを受信したRPLオーナーノードは、RPLの閉塞を解除し、トラフィックがRPLを通って転送されるようにします。
- - これにより、リング内に障害が発生しても、すべてのノード間の接続性が維持されます。
障害復旧時の動作
- - 障害が復旧すると、復旧したリンクに隣接するノードはR-APS(NR)メッセージを送信します。
- - R-APS(NR)メッセージを受信したRPLオーナーノードは、RPLポートを再び閉塞します。
- - その後、R-APS(NR,RB)メッセージを送信し、リング内の他のノードがポートの閉塞を解除し、通常の転送状態に戻ります。
G.8032v2の拡張機能
G.8032のバージョン2では、以下の機能が追加され、より柔軟で高度なネットワーク構成をサポートします。
- - マルチリング/ラダーネットワーク対応: 複数のリングが連結した複雑なネットワーク構成に対応します。
- - 復帰/非復帰モード: 障害復旧時に、自動的に元の経路に戻すか、手動で戻すかを選択できます。
- - 管理用コマンド: 強制切替(FS)や手動切替(MS)コマンドにより、管理者が特定のリングポートを閉塞できます。
- - FDBフラッシュの最適化: FDBの更新処理を効率化し、ネットワークの安定性を向上させます。
- - 複数インスタンス対応: 1つのリング内で、複数のERPSインスタンスを独立して運用できます。
ERPSのメリット
- - 高速な切り替え: 50ミリ秒以下の高速な切り替えにより、通信断によるサービスへの影響を最小限に抑えます。
- - ループ防止: ネットワークループを防止し、ブロードキャストストームによるネットワーク障害を防ぎます。
- - 冗長化: リンク障害時に通信経路を自動的に切り替えることで、高可用性を実現します。
- - シンプルな構成: リング状のシンプルなネットワーク構成で、導入・管理が容易です。
その他の特徴
- - 一方向障害対応: リング内の一方向のリンク障害にも対応可能です。
- - 複数リンク障害対応: 複数のリンク障害が発生した場合でも、適切にトラフィックを迂回させることができます。
- - メンテナンス機能: 強制切替(FS)や手動切替(MS)などのメンテナンス機能を提供し、ネットワークの柔軟な運用をサポートします。
まとめ
ERPSは、
イーサネットリングにおける高可用性と高速な障害回復を実現するための重要なプロトコルです。そのシンプルな構成と強力な機能により、様々なネットワーク環境で信頼性の高い通信サービスを提供します。
参考情報