FP-1000

CASIO FP-1000/FP-1100: 業務用途に特化した8ビットパソコン

カシオ計算機株式会社が1982年に発売したパーソナルコンピュータ、それがFP-1000とFP-1100です。これらは、当時の一般的なパソコンとは一線を画す、独自の設計思想と高い数値演算能力を備えていました。

基本仕様

FP-1000/FP-1100は、メインCPUにZ80互換の4MHzプロセッサ、サブCPUにはuPD7801G(2MHz)というデュアルCPU構成を採用しています。キーボードは本体と一体型で、メインRAMは64KB、ビデオRAMはFP-1000が16KB、FP-1100が48KBです。拡張スロットはカートリッジタイプで2つ搭載しています。最大の特徴は、数値計算に特化したC82-BASICを搭載している点です。このBASICは、数値の内部形式にBCD（二進化十進数）を採用しています。

当時としては、高性能な仕様ながら、価格はFP-1000が98,000円、FP-1100が128,000円と比較的安価でした。これは、当時の市場を席巻していたNECのPC-8000シリーズやPC-8800シリーズを強く意識した戦略的な価格設定だったと言えるでしょう。さらに、別売りの汎用拡張ボックスFP-1060を接続することで、最大8つの拡張スロットが利用可能になり、拡張性も備えていました。

特徴

最大の特筆すべき点は、やはりそのBASICです。カシオは計算機メーカーとしての強みを活かし、数値演算に重点を置いた独自のBASICを開発しました。このBASICでは、一般的な倍精度（64ビット）BCD浮動小数点数の数値型に加えて、四倍精度BCDの数値型も備えていました。これにより、内部演算は29桁、表示は24桁、指数部は-99から+99乗までという非常に高い精度での計算が可能でした。BCD形式の採用により、浮動小数点演算における二進数と十進数の変換に伴う誤差を回避できるため、金融計算などの業務アプリケーションにおいてその真価を発揮しました。さらに、任意精度に丸める関数も搭載されており、数値計算の精度に対する高い要求に応えることができました。

ただし、10.0 / 3.0 のように、十進数で正確に表せない計算については、誤差が生じる場合もあります。これは、BCD形式であっても、無限小数になるケースが存在するためです。

また、FP-1000/FP-1100は、他社製品とは異なり、10個のサイズ可変プログラム領域を持っていました。これにより、複数のプログラムを同時にメモリ上に保持し、切り替えて実行することが可能でした。この考え方は、後のカシオのポケットコンピュータにも受け継がれています。

ゲーム

FP-1000/FP-1100は、数値演算に特化した設計のため、ゲーム分野においては苦戦を強いられました。ビデオRAMやキーボードなどの周辺機器が、低速なサブCPU側に配置されていたため、これらの機器を使用するアプリケーションの実行速度が遅くなるという問題がありました。特に、アクションゲームなど、高速な描画や応答性が求められるジャンルでは、その性能を十分に発揮できませんでした。そのため、当時主流だったPC-8801向けに開発された人気ゲームが移植されることはほとんどありませんでした。

まとめ

CASIO FP-1000/FP-1100は、高度な数値演算能力と業務用途を意識した設計が特徴的な8ビットパソコンでした。特に、独自のBASICとデュアルCPU構成は、当時の他の機種とは一線を画しており、計算機メーカーとしてのカシオの技術力を示すものでした。ゲーム分野では苦戦しましたが、業務アプリケーションにおいては、その高い精度と安定性から多くの支持を得ました。

参考文献

* 「ASCII 1982年11月号」第6巻第11号、株式会社アスキー出版、1982年11月1日。

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