Flavr Savr

Flavr Savr（フレーバーセーバー）とは

Flavr Savrは、1990年代にカリフォルニア州のCalgene社によって開発された、遺伝子組み換え技術を用いた特別なトマトの品種です。このトマトが歴史に名を刻んだのは、世界で初めて商業的な栽培と販売が実現した遺伝子組み換え作物であったからです。

開発の目的と技術

Flavr Savrが開発された最大の目的は、トマトの日持ちを格段に良くすることでした。通常のトマトは熟すと柔らかくなり、傷みやすくなります。これは、トマトが熟成する過程で果実の細胞壁を構成するペクチンを分解する酵素、特にポリガラクツロナーゼという酵素の働きが活発になるためです。

Calgene社は、このポリガラクツロナーゼ酵素の生成を抑えることに着目しました。具体的には、ポリガラクツロナーゼの遺伝子に対して、その遺伝子の情報を読み取る方向とは逆向きの配列を持つ「アンチセンスcDNA」を導入しました。これにより、酵素の生成が抑制され、トマトが熟しても細胞壁の分解が進みにくくなり、果実が柔らかくなるスピードが遅くなったのです。これが、Flavr Savrの最大の特徴である優れた日持ちの秘密です。

Flavr Savrがもたらした利点

Flavr Savrの最大の特徴である「日持ちの良さ」は、農業、流通、そして消費者の様々な段階でメリットをもたらしました。

農業と収穫

従来のトマトは、流通過程で傷むのを避けるために、完全に熟す前に収穫されることが一般的でした。しかし、Flavr Savrは日持ちが良いため、畑で果実が完全に熟するまで待ってから収穫することが可能になりました。

完熟してから収穫できることには、いくつかの大きな利点があります。

風味の向上: 完熟したトマトは、未熟な状態で収穫されたものよりも糖度が高く、酸味とのバランスも良いため、風味が豊かで美味しい傾向があります。
栄養価: 栄養素も完熟段階でピークを迎えるものが多いため、栄養価の高い状態で市場に出すことができます。

流通と貯蔵

また、Flavr Savrは熟しても果皮が軟化しにくいため、物理的な衝撃による傷がつきにくく、その結果として腐敗も起こりにくいという利点がありました。これにより、貯蔵期間が大幅に延長されました。

日持ちと耐久性が向上したことで、

輸送の容易さ: 遠隔地への輸送中に傷むリスクが減少し、より広範囲に流通させることが可能になりました。
食品ロス削減: 流通過程や家庭での保管中に傷んで廃棄されるトマトの量を減らす効果が期待されました。

歴史的な意義

Flavr Savrは、1992年にアメリカ食品医薬品局（FDA）から食品としての安全性承認を受け、1994年に初めて市場で販売されました。これは、遺伝子組み換え技術が研究室を出て、実際に食品として消費者の手に届いた最初の事例であり、その後の遺伝子組み換え作物の開発と社会的な議論に大きな影響を与えました。

商業的な成功は限定的でしたが、Flavr Savrはバイオテクノロジーが食品生産にもたらす可能性を示し、農業技術史における重要な一歩となりました。

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