Heavenly (L'Arc〜en〜Cielのアルバム)

L'Arc〜en〜Ciel 3rdアルバム『heavenly』

1995年9月1日にリリースされたL'Arc〜en〜Cielの3枚目のスタジオアルバム『heavenly』は、前作『Tierra』から約1年2ヶ月ぶりの作品です。Ki/oon Sony Recordsから発売されました。本作は、バンドが音楽性と活動方針を大きく転換させる時期に制作された、重要なターニングポイントとなる作品として知られています。

制作背景

前作『Tierra』では、レコーディングに約半年を費やした反省から、本作ではプリプロダクションに重点を置き、レコーディング期間の短縮を目指しました。これは、前作のプロモーション不足でライブのチケットが売れ残る事態が発生したことが背景にあります。メンバーは、1994年末に今後の活動方針を話し合い、「1995年はライブを中心とした活動にする」という目標を立てました。このミーティングでメンバー間の結束が強まり、バンドの主体性を確立するきっかけとなりました。

tetsuyaは、この時期について「音楽をやる上での、バンドをやる上での軸が確立した」と述べています。hydeも「自分たちが主導権を握って活動していなければ、バンドは終わっていたかもしれない」と当時を振り返り、本作の制作がバンドの根幹をなす重要な時期であったことを示唆しています。

録音と音楽性

『heavenly』の録音は、1995年3月から合宿形式で開始されました。メンバー自身がプロデュースと編曲を手がけ、前作以上に多様な音楽ジャンルへのアプローチが試みられています。ゴスやニューウェーブを基調としつつ、サイケデリック、ハードロック、ジャズ、ブルー・アイド・ソウル、フォークなど、幅広い音楽性が展開されています。

アレンジについて、hydeは「曲作りの段階からメンバー全員でアレンジしまくった。バンドとしての力が発揮できた第一弾」と語っています。kenは「歌メロが早い時期から見えていたのが特徴。各パートを絡ませる意識があった」と述べています。sakuraは、「ムダなものをそぎ落とし、一音一音に説得力を持たせる」という意識で制作に臨み、メンバーの個性が際立つサウンドを目指しました。

録音では、楽曲の雰囲気に合わせ2つのスタジオを使い分け、ドラムセットも3種類のバスドラムを楽曲ごとに使い分けるなど、音へのこだわりが強く見られます。sakuraは、前作と比較して「頭で思いついたものを音で表現する」のではなく「音から派生したものがアートになる」という考えで制作に臨んだと語っています。

楽曲解説

Still I'm With You

バグパイプ風の音色が印象的な、メロディアスなロックナンバー。kenの楽曲の断片を基に、hydeが歌詞とアレンジを加えて完成しました。歌詞は、人間の愚かさを皮肉的に表現しています。tetsuyaはフレットレスベースを使い、hydeのボーカルとデュエットするような演奏をしています。

Vivid Colors

2ndシングルとしてリリースされた、アコースティックギターのカッティングが特徴的なメロディアスなロックナンバー。サビのメロディはkenが大学時代から温めていたものです。アレンジャーとして西平彰が参加し、キーボードアレンジが加えられています。hydeは電車の風景を思い浮かべながら歌詞を書いたと語っています。

and She Said

サイケデリックな雰囲気が特徴の楽曲。hydeがビートルズをイメージして作詞・作曲しました。sakuraは、ティンパニなどパーカッションを多用し、ミッチ・ミッチェルのドラムスタイルを意識して演奏しています。tetsuyaは遊び心のあるベースプレイをしています。歌詞には、ビートルズの楽曲からの影響が見られます。

ガラス玉

静と動のコントラストが印象的な、死と隣り合わせの世界観を表現したナンバー。波の音から始まり、激しいバンドサウンドに展開する構成が特徴です。kenのギターソロは、モロッコでのイメージビデオ撮影でインスパイアされたものです。hydeはこの曲を「本作の中で一番のお気に入り」としています。タイトルは水中での吐息を比喩しています。

Secret Signs

ハードロックとジャズを融合させた楽曲。kenは、指弾きでギターを演奏し、ジャズらしいリズムと音使いを意識しました。sakuraはジャズクラブでの演奏をイメージし、即興的なドラミングをしています。tetsuyaはジャジーなランニングベースを演奏しています。歌詞は、当時としては珍しいエロティックな物語が描かれています。

C'est La Vie

ブルー・アイド・ソウルの雰囲気が漂うポップナンバー。tetsuyaがダリル・ホール&ジョン・オーツをイメージして作曲しました。hydeは、何気ない日常をテーマに歌詞を書いています。タイトルは「人生なんてこんなものさ」という意味のフランス語です。

夏の憂鬱

フォークロックの雰囲気が漂う、哀愁を誘うミディアムナンバー。kenがアコースティックギターを弾いていた時に生まれたイメージを基に制作されました。hydeは山口百恵の「いい日旅立ち」のような雰囲気を意識したと述べています。歌詞は、砂浜の風景をイメージして書かれています。後にリアレンジされた「夏の憂鬱 [time to say good-bye]」としてシングルカットされました。

Cureless

疾走感のある楽曲。前作『Tierra』の制作時から存在した曲で、今回改めてアレンジされました。kenは、アルペジオを重視したギタープレイをしています。歌詞は、ハッピーエンドを意識して書かれていますが、タイトルは「癒せない」という意味で使われています。

静かの海で

サンプリングした通信音声やパーカッションが導入された壮大な楽曲。演奏時間は7分を超え、アルバムの終盤を彩る大作となっています。sakuraの原案を基に、メンバー全員で作曲。歌詞は、アポロ11号で月に残された機械の視点で描かれています。メンバー4人によるコーラスも聴きどころです。

The Rain Leaves a Scar

アルバムを締めくくるハードなナンバー。kenがキーボードでデモを作成した曲です。当初はバラードのイメージでしたが、バンドアレンジによってハードな曲になりました。hydeは、歌詞で「孤独の極致」を表現しています。タイトルは「雨さえも傷跡を癒せない」という意味です。

リリース形態

CDとMDで発売され、初回限定盤はスーパーピクチャーレーベル仕様でした。また、オルゴールCDボックスも限定発売されました。2011年以降、デジタル配信も開始され、2022年にはリマスタリング版を含むボックスセットが発売されました。

評価とチャート成績

音楽ライターからは、多様な音楽性や楽曲の完成度の高さが評価されました。オリコン週間アルバムチャートでは3位を獲得し、L'Arc〜en〜Ciel初のTOP3入りを果たしました。

まとめ

『heavenly』は、L'Arc〜en〜Cielの音楽性を大きく広げ、その後の活動の基盤を築いた重要な作品です。バンドの主体性を確立し、多様な音楽性を追求した意欲作として、現在でも多くのファンに愛されています。

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