IBM PCコンバーティブル

IBM PC Convertible：IBM初のポータブルパソコンとその時代

1986年、IBMはPC市場に革命を起こすべく、初のラップトップパソコン「IBM PC Convertible」を発表しました。これは単なるポータブルPCではなく、後のノートPCデザインや技術革新に影響を与える先駆的な存在でした。

開発の歴史と背景

IBM PC Convertibleの開発は容易ではありませんでした。以前より「Sweetpea」というコードネームで、Tandy Model 100のような小型ラップトップの開発が行われていましたが、IBM PCとの互換性に問題があり、プロジェクトは中止されています。その後も複数のプロトタイプが開発されましたが、デザインや人間工学的な課題、競合他社の製品との比較において課題が残りました。結果的に、市場の要求と技術的限界のバランスを取りながら、IBM PC Convertibleは完成しました。

機器の特徴と仕様

IBM PC Convertibleは、当時の技術を凝縮した革新的な製品でした。

コンパクトなボディ: 持ち運びに便利な取っ手付きで、当時のラップトップとしては比較的コンパクトな設計です。しかし、重量は5.8kgと現代の基準からするとかなり重たいです。
3.5インチフロッピーディスクドライブ: 当時まだ一般的ではなかった3.5インチフロッピーディスクドライブを搭載し、データの保存と持ち運びの利便性を高めました。これは、後のノートパソコンの標準規格となる3.5インチフロッピーディスクドライブを採用した最初のIBM製パソコンでもあります。
バッテリー駆動: 内蔵バッテリーにより、場所を選ばずに使用することが可能でした。これは、当時のモバイルコンピューティングにおいて重要な要素でした。
拡張性: 背面に独自のISAバスベースのポートを備え、プリンターやディスプレイなどの拡張モジュールを接続することができました。ただし、ハードディスクドライブは搭載できませんでした。
独自の電源管理: 電源ボタンは電源のON/OFFではなく、サスペンドモードへの切り替えに使用されていました。これは、CMOS版80C88プロセッサが持つスタティックコアメモリを利用したもので、高速な起動を実現する工夫でした。
モノクロ液晶ディスプレイ: CGA互換のモノクロ液晶ディスプレイを搭載していました。解像度はテキストモードで80桁×25行、グラフィックモードで640×200ドットと320×200ドットに対応。画面は取り外し可能で、外部モニターと接続して使用することも可能でした。これは、後のドッキングステーションの先駆けとなる機能です。

市場での評価と販売状況

IBM PC Convertibleは、革新的な機能を備えていましたが、市場での成功は限定的でした。いくつかの要因が挙げられます。

重量と性能: 5.8kgという重量は、ポータブルとは言え持ち運びには負担でした。また、性能に関しても、競合他社の製品に比べて優れているとは言えませんでした。
拡張性の制限: ハードディスクドライブを搭載できないことや、標準的な拡張ポートの不足は、ユーザーの利便性を低下させました。
ディスプレイの視認性: 液晶ディスプレイの視認性も課題でした。初期モデルにはバックライトも搭載されていませんでした。
価格競争: コンピュータメーカー各社から、より高速で軽く、価格も安い競合製品が登場しました。

これらの要因により、IBM PC Convertibleは商業的な成功を収めることができませんでした。

日本における展開

日本市場においても、IBM PC Convertibleは正規輸入に近い形で販売されましたが、日本語化はされていませんでした。また、モデムや一部のソフトウェアはサポートの都合上、販売されませんでした。一方で、後のPS/55|PS_55シリーズの開発に貢献したことも注目に値します。

まとめ

IBM PC Convertibleは、IBMがラップトップパソコン市場に参入する第一歩でした。その革新的なデザインと機能は後のノートパソコンに大きな影響を与えましたが、市場の要求や競争の激しさの中で、商業的な成功は収められませんでした。それでも、IBM PC Convertibleは、モバイルコンピューティングの歴史における重要なマイルストーンとして、その存在感を示しています。

もう一度検索