IBM Selectric typewriter

IBM Selectric タイプライター

IBM Selectricタイプライターは、1961年にIBMによって発表された電動タイプライターで、特にアメリカ合衆国において広く使用されました。「Selectric」という名称は、「選択式」と「電動」を意味する言葉を組み合わせた造語です。このタイプライターは、従来の機種とは異なる革新的な構造を採用し、その結果、業務用電動タイプライター市場で75%のシェアを誇るまでに成長しました。

機構の特徴

従来のタイプライターは、バスケット状のタイプバーを使用していましたが、Selectricは「タイピング・エレメント」と呼ばれる中央部品を採用しました。このタイピング・エレメントにより、同じ文書の中でも異なるフォントに変更することが可能となりました。この革新は、19世紀後半に登場したBlickensderferタイプライターを経て、タイプライターの機能を飛躍的に向上させた重要なステップとなりました。

さらに、Selectricは従来のキャリッジ移動システムを見直し、タイピング・エレメントとインクリボンが左右に動く新しいメカニズムを導入しました。この方式は、内部に機械的なデジタル-アナログ変換器を使用しており、印字するための精度を高めました。

市場での成功と後継機

Selectricの登場以降、アメリカでも大きな人気を集め、1986年には発売25周年を迎えるほどの支持を得ました。累計で1,300万台以上が販売され、業務用市場では圧倒的な存在感を示しました。1984年以降、IBMはSelectricの技術を発展させ、デイジーホイール機構を備えたIBM Wheelwriterへと移行しました。1991年には、自社のタイプライター部門をレックスマークとして独立させました。

開発の経緯

Selectricの開発は1951年から始まりました。当初は低価格の製品ラインとして単一エレメントを使用していましたが、実用性に欠けていました。そのため、1954年に球型エレメントを用いたプロトタイプが完成し、その設計がゴルフボールの形状に近づきました。デザインには、アメリカ人デザイナーのエリオット・ノイスが関与し、これにより美しい外観が生まれました。

モデルのバリエーション

初代Selectric（モデル72）は1961年に発表され、印字速度は最高15.5字/秒を誇り、以前のIBM電動タイプライターに比べて55%向上しました。モデル72はファブリックリボンとカーボンフィルムリボンの二種類が利用可能で、印字幅のサイズも選べました。この後、日本では1963年に「モデル72 電動タイプライター」が登場し、1964年にはカタカナタイピング用のバージョンも発売されました。

1971年に発表されたSelectric II（モデル82）では、デュアルピッチの選択肢が加わり、印字スタイルの自由度が向上しました。1973年のCorrecting Selectric II（モデル82C）は、訂正機能を内蔵し、タイプライターの使い勝手をさらに向上させました。続いて、記憶装置付きモデルとして、1964年には磁気テープタイプライター、1969年には磁気カードタイプライターが登場しました。

最後のバージョン

1980年、IBMはSelectric IIIを発表し、新しい電子タイプライター市場に挑みました。しかし、この時期にはCRTディスプレイ付のワードプロセッサも普及し、Selectricシリーズは競争が激化していました。

このように、IBM Selectricタイプライターはその革新的な設計と技術によって、タイプライター史において重要な役割を果たしました。

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