IPアドレス枯渇問題

IPアドレス枯渇問題とは

IPアドレス枯渇問題とは、インターネットの発展に伴い、IPアドレスの割り当てに使用されるIPv4アドレスが不足している問題です。インターネット上の機器はIPアドレスによって識別されますが、IPv4アドレスは約43億個しか存在せず、インターネットの急速な普及により枯渇の危機に瀕しています。

IPv4アドレスの枯渇

2011年2月3日、IANA（インターネット割り当て番号機関）が管理するIPv4アドレスは枯渇しました。現在、各地域インターネットレジストリ（RIR）が管理する在庫が割り当てられていますが、それらも枯渇が進んでいます。特に、アジア太平洋地域（APNIC）では2011年4月に、ヨーロッパ地域（RIPE NCC）では2019年11月に在庫が事実上枯渇しました。北米地域（ARIN）も2015年に枯渇しています。

問題の発生原因

IPv4アドレスの枯渇は、インターネットの初期設計時には想定されていなかった急激な普及が原因です。当初、32ビットのIPアドレスで十分だと考えられていましたが、インターネットの利用が世界的に拡大するにつれ、アドレス空間が不足するようになりました。

問題の影響

IPv4アドレスが枯渇すると、以下のような影響が出ます。

新規接続の困難: 新しいデバイスやサーバーをインターネットに接続するためのIPv4アドレスが不足し、新規ユーザーがインターネットに接続できなくなる可能性があります。
サービスの制限: IPv4アドレスを必要とする既存のサービスが制限されたり、新しいサービスを提供することが困難になったりします。
ルーター設定の変更: プロバイダから割り当てられるIPアドレスが、グローバルアドレスからプライベートアドレスに変更される可能性があり、ルーターの設定変更が必要になることがあります。
アプリケーションの不具合: 一部のアプリケーションは、グローバルIPアドレスを前提としているため、プライベートIPアドレス環境下では動作しなくなることがあります。
WebサイトやWebアプリケーションへの影響: IPv4でアクセスされることを前提にしているウェブサイトやアプリケーションでは、IPv6への対応が必要になり、複雑な対応が必要になる場合があります。
既存ユーザーへの影響: IPアドレスを共有する必要が生じることで、既存ユーザーの既得権益が侵害される可能性があります。

日本での対応

日本では、1990年代後半からインターネットが急速に普及したため、動的IPアドレス割り当て方式が採用され、固定IPアドレスは追加料金が必要になることが一般的になりました。JPNIC（日本ネットワークインフォメーションセンター）は、IPアドレスの割り当てを厳格化し、無駄な割り当てを防ぐ措置を講じています。また、プロバイダはIPv6によるインターネット接続サービスの提供を本格化させていますが、既存のIPv4接続サービスの扱いについては、プロバイダによって対応が異なります。

総務省は「ISPのIPv4アドレス在庫枯渇対応に関する情報開示ガイドライン」を公開し、プロバイダによる対応状況の開示を促しています。

IPアドレス枯渇の歴史

黎明期

1981年: IPv4の仕様が公開されました。当時は、主にアメリカ国内の政府機関や研究機関での利用が想定されていました。
1991年: IPアドレスの不足が指摘され、IETFが調査を開始しました。
1992年: IPv6の開発が始まりました。
1993年: 地域インターネットレジストリに最後の/8ブロックが割り当てられることが決定しました。
1994年: プライベートアドレスが導入され、LANでのTCP/IP利用が促進されました。

揺籃期

1990年代後半: インターネットの普及に伴い、IPv4アドレス枯渇が社会問題として認識されるようになりました。
2001年: インターネットバブルにより、2007年頃にIPアドレスが枯渇するとの予測が出ましたが、バブル崩壊により需要が減少し、枯渇時期は2020年頃に修正されました。

対策期

2000年代後半: IANAの在庫が減少してきたため、IPアドレス枯渇の予想が現実味を帯びてきました。
2004年 - 2008年: JPNICは割り当て済みのIPアドレスの整理と回収を実施しました。
2006年: JPNICはIPv4アドレス枯渇に向けた提言を公開し、2009年 - 2022年でIPv4アドレスが枯渇するとの予測が発表されました。
2007年: JPNICは地域インターネットレジストリのIPv4アドレスの在庫が2010年に無くなると予測しました。
2008年: IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースが設立されました。

枯渇期

2011年1月: APNICに「/8ブロック」が2つ割り当てられました。
2011年2月: IANAが管理するIPv4アドレスが枯渇しました。
2011年3月: 旧クラスB, RIR分配以前の旧クラスCアドレス領域が各RIRに分配されました。
2011年4月: APNICのIPv4アドレスの在庫が枯渇しました。
2012年9月: RIPE-NCCのIPv4アドレスの在庫が枯渇しました。
2019年11月: RIPE-NCCにおいて全てのIPアドレスが枯渇しました。

126.0.0.0/8分配事件

2005年、ソフトバンク傘下のBBテクノロジーに大量のIPアドレスが分配されたことで、IPアドレスの割り当てに関する不透明さに対して、批判が起こりました。この事件は、IPアドレスの枯渇問題に対する人々の関心を高めるきっかけとなりました。

APNICとJPNICの見解

APNICとJPNICは、IPv4アドレスの枯渇を認め、IPv6への移行を長期的な対策として推奨しています。また、新規のIPv4アドレスの割り当ては原則として行わず、IPv6の利用を拡大することが唯一の長期的な対策であるとしています。

IPv6の採用

IPv6は、IPv4の後継として開発された新しいプロトコルであり、アドレス空間が大幅に拡大されています。しかし、IPv6への移行には、技術的な課題やコストがかかるため、普及は緩やかです。

IPv4アドレス移転制度

休眠中のIPv4アドレスを有効活用するため、IPv4アドレスの移転制度が導入されました。しかし、実際に移転されるIPアドレスは少なく、休眠中のIPアドレスを保有する事業者は、提供に消極的なため、現状ではほとんど機能していません。

まとめ

IPアドレス枯渇問題は、インターネットの発展とともに発生した深刻な問題であり、IPv4アドレスの不足は、インターネットの利用に大きな影響を与えています。現在、IPv6の導入が推進されていますが、IPv4アドレスの完全な代替には時間がかかるため、IPv4アドレスを有効に活用するためのさまざまな対策が講じられています。

参考情報

日本におけるインターネット資源管理の歴史 - JPNIC
IPv4アドレスの在庫枯渇に関して - JPNIC
IPv4 Address Report （英語）
IANAによるIPv4アドレス割り当て状況 （英語）
IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース
ISPのIPv4アドレス在庫枯渇対応に関する情報開示ガイドライン - 総務省
IPアドレス枯渇問題への対応，政府と企業の連携が必要 - 経済協力開発機構 (OECD) 2008年5月15日
IPアドレスに関する統計・各種リスト - JPNIC
* 「ISPのIPv6対応について」 - インターネットプロバイダー協会 (JAIPA)

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