IT'S A POPPIN' TIME

山下達郎のライブ活動と『IT'S A POPPIN' TIME』：ソロ転向の苦労と名盤誕生

1978年5月25日にリリースされた山下達郎の初ライブアルバム『IT'S A POPPIN' TIME』は、彼の音楽キャリアにおいて重要な位置を占める作品です。このアルバムは、ソロデビュー後、様々な困難を乗り越えて制作された、山下達郎の情熱と才能が凝縮された作品と言えるでしょう。

ソロ活動開始当初、山下達郎はバックバンドの編成に苦戦していました。一流ミュージシャンは高額なギャラを要求し、予算の都合がつかず、一方で、安価なミュージシャンでは演奏に満足できませんでした。そのため、ライブ活動は限られた規模のライブハウスや学園祭などに限定されていました。しかし、1977年末には村上秀一（ドラム）、岡沢章（ベース）、松木恒秀（ギター）、坂本龍一（キーボード）という実力派ミュージシャンからなる安定したメンバーが結成され、ライブ活動は徐々に軌道に乗り始めました。

このメンバーによるライブを目撃したディレクター、小杉理宇造氏から、ライブレコーディングによるアルバム制作が提案されました。これは、予算の制約からスタジオアルバム制作が難しい状況下における、コスト効率の良い選択肢だったと言えます。小杉氏は、かつてシュガー・ベイブの解散ライブを見て山下達郎に契約を持ちかけた経緯があり、彼のライブパフォーマンスに高い評価を与えていたのです。

レコーディングは、六本木のライブハウス「ピット・イン」で行われました。ジャズやフュージョンが中心のこのライブハウスは、山下達郎が多くのミュージシャンと親交があった場所であり、CBSソニー六本木スタジオとの回線接続も整備されていたため、ライブレコーディングに最適な環境でした。

山下達郎は、ダニー・ハザウェイのライブアルバムを参考に、インプロビゼーションを重視した構成を目指していました。そのため、未発表曲もレパートリーに加えられ、単なるライブ音源集とは異なる、こだわりの詰まった作品となりました。しかし、演奏時間の関係で2枚組となり、レコード会社からは売りにくいという指摘を受けることになります。

パッケージ、アートワークにもこだわりが見られます。それまでのアルバムで誤植が多かったことから、オリジナルLPのクレジットと歌詞カードは山下達郎自身の手書きで作成されました。また、アナログ盤のジャケットはゲートフォールド仕様、インナーのライブ写真は伊島薫氏による撮影で、彼のプロカメラマンとしての最初の仕事となりました。

2002年には、デジタルリマスタリングと山下達郎自身のライナーノーツ、曲解説を収録したCDとして再発されました。アナログ盤未収録だった2曲がボーナストラックとして追加収録され、さらに他のRCA/AIRイヤーズ作品との連動キャンペーンも実施されました。

そして2023年、山下達郎のRCA/AIR YEARS作品がアナログ盤とカセットテープで再発される企画において、『IT'S A POPPIN' TIME』も含まれました。180g重量盤、完全生産限定盤としてリリースされ、オリジナルの手書き歌詞カードに加え、新たな歌詞カード、対訳、改訂されたライナーノーツなども収録されました。この再発盤は高い人気を集め、オリコン週間アルバムランキングで9位を獲得、5カ月連続リリースされたRCA/AIR YEARSシリーズ全作品がTOP10入りを果たすという快挙を達成しました。

『IT'S A POPPIN' TIME』は、山下達郎の音楽家としての歩み、そしてソロアーティストとしての苦悩と成長を象徴する作品です。その音楽性と歴史的価値は、今なお多くのリスナーを魅了し続けています。

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