Il-86 (航空機)

Il-86（イリューシン86）

Il-86は、ソ連のイリューシン設計局によって開発されたワイドボディ旅客機であり、初めてのソ連製ワイドボディ機として知られています。この機体は、1970年代の航空業界の変革に応じて設計され、西側諸国でのボーイング747やエアバスA300の登場に刺激を受けて開発が進められました。

開発の背景

1960年代後半以降、航空輸送の主流が近距離間の大量輸送にシフトするとの予測から、ソ連の指導部は各設計局において新たな機体の開発を指示しました。1971年に設計が開始され、1976年に初飛行を果たしましたが、その実用化には時間がかかり、商業運航は1980年からになりました。特に、モスクワオリンピックには間に合わず、実運用は遅れました。

機体設計

Il-86は、緊急時に軍事目的にも使用できるよう設計されており、従来のソ連機とは異なるアプローチが取られました。近距離間の大量輸送をかかげ、主に2500メートル以上の滑走路での運用を前提としています。また、中央に配置されたメインギアが特徴で、これによって滑走路への負荷を軽減しています。

機内の快適性

機内は他のワイドボディ機と同様に2列の通路があり、エコノミークラスでは3-3-3の配置で座席が設けられています。乗客の快適性を考慮し、充実した映画上映サービスが整えられているものの、個人用のテレビは設置されていません。特に、乗客が下部デッキにあるエアステアから乗り込む方式が採用されており、限られた設備の地方空港でも運用できる利点があります。

エンジンの仕様

本来、Il-86にはソロヴィヨーフ D-30エンジンが搭載される予定でしたが、代わりにクズネツォフ NK-86エンジンが搭載されました。結果として、燃料消費効率が悪く、航続距離も同時期の他機より短いという課題がありました。とはいえ、当時のアエロフロートの運用方針や国内の豊富な石油資源に支えられ、この問題はあまり重視されませんでした。エンジンの換装は検討されましたが、資金面から実現には至りませんでした。

記録と派生型

Il-86は、多くのFAI公式記録を保持し、特に1981年には2000kmと1000kmの飛行周回路で数多くの記録を達成しました。積極的に軍事用機としての派生型Il-80も開発され、その評価は高いものとなりました。

生産と運用

Il-86は、1995年までに106機が製造され、この中には旅客機と軍用機が含まれています。アエロフロートをはじめとした航空会社によって多くの路線で使用されましたが、西側諸国への販売は成功しませんでした。逆に、安定した操縦特性を持っており、事故も非常に少ないことから今日に至るまで評価されています。

主要技術仕様

• - 全長: 59.54 m
• - 翼幅: 48.06 m
• - 全高: 15.81 m
• - エンジン: クズネツォフ NK-86ターボファンエンジン ×4
• - 推力: 13,000 kg
• - 乗員: 3
• - 座席数: 234-350
• - 最大離陸重量: 206,000 kg
• - 巡航速度: 900 km/h
• - 最大高度: 11,000 m
• - 航続距離: 5,000 km（全負荷で3,500 km）

Il-86は、ソ連における個性的な旅客機として、航空史に名を刻んでいます。

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