Informix

Informix Corporationの興亡

Informix Corporationは、かつて存在したアメリカのソフトウェア企業で、関係データベース管理システム（RDBMS）の「Informix」製品群で知られていました。しかし、経営不振により2001年にIBMに買収され、その歴史に幕を閉じました。ここでは、Informixの誕生から消滅までの軌跡を詳細に追います。

草創期 (1980年)

Informixの創業者であるロジャー・シップルとローラ・キングは、S-100バスコンピュータメーカーのクロメンコに勤務していました。そこで、報告書作成ソフトウェアのためのISAM技術に基づいた小型の関係データベースの開発に取り組みました。

1980年、二人はクロメンコを退社し、Relational Database Systems（RDS）を設立。最初の製品「Marathon」は、クロメンコで開発したシステムの16ビット版であり、ザイログの初期マイクロプロセッサ向けのUNIX（Onyx）上で動作しました。

Informixの誕生と成長 (1981年～1980年代)

成長を続けるRDBMS市場に着目したRDSは、1981年に「Informix (INFORMation on unIX)」をリリースしました。これには独自の言語「Informer」が含まれており、データ抽出やレポート作成を行う「ACE」、対話的なデータベース操作を実現する「PERFORM」も付属していました。

1985年には、SQLベースのクエリエンジン「INFORMIX-SQL (ISQL)」がリリースされました。ISQLは、データベースアクセスコードをクライアントコードから完全に分離し、クライアント・サーバ型データベースシステムの基礎を築きました。1986年には株式公開を果たし、社名をInformix Softwareに変更しました。

その後も、マルチユーザー性能に優れたRSAM技術を採用した「INFORMIX-Turbo」がリリースされ、1989年には「INFORMIX-OnLine」と改称されました。従来のC-ISAMベースのサーバ機能は「INFORMIX-SE」として分離され、1990年末には分散トランザクション機能を含む「Informix OnLineバージョン5.00」がリリースされました。

Innovative Softwareの買収とWingZの挫折 (1988年)

1988年、InformixはオフィスソフトウェアメーカーのInnovative Softwareを買収し、Macintosh用表計算ソフト「WingZ」を手に入れました。WingZはGUIとプログラミング言語「HyperScript」が特徴で、当初はExcelに次ぐシェアを獲得しましたが、サーバ向け以外のソフトウェア市場に対する理解不足から、リソース不足に陥り、競争力を失いました。1995年にWingZは売却され、そのライセンスはClarisに渡り、Claris Resolveとして生まれ変わりました。

動的スケーラブルアーキテクチャ (DSA) の導入 (1994年)

オフィスソフトウェア市場での失敗から、Informixは再びデータベースサーバ市場に注力するようになります。1994年、Informixはシーケント・コンピュータとの協業により、動的スケーラブルアーキテクチャ（DSA）を採用したバージョン6.00データベースサーバをリリースしました。

DSAは、垂直および水平方向の並行性をサポートし、マルチスレッド型コアを採用したことで、業界トップクラスのスケーラビリティを実現。OLTPとデータウェアハウスの両方に対応できるようになりました。その後、バージョン7がリリースされ、UNIXでの対称型マルチプロセッシングの普及とともに、競合他社製品を凌駕する性能を誇りました。1997年にはサイベースを抜き、業界2位に躍り出ました。

Illustraの買収とオブジェクト関係データベース (1995年)

1995年、Informixはオブジェクト関係データベース（ORD）に着目し、Illustraを買収しました。Illustraはマイケル・ストーンブレーカーのPostgres開発チームが作ったもので、データベースとオブジェクトを関連付ける各種機能や、データ型を拡張できるDataBladesを備えていました。Informixはこれらの機能を製品に取り入れ、「Informix Universal Server (IUS)」としてリリースしました。

1996年には、V8 (XPS) とV9 (IUS) がリリースされ、Informixは3大データベース企業の中でいち早くORDをサポートしました。DataBladesは特に人気を集め、各プラットフォームに移植されました。

経営問題と買収 (1997年～2001年)

技術的には成功を収めていたInformixでしたが、マーケティングと企業運営での失敗が重なり、1997年には収益が大幅に減少。CEOの解任など、経営陣の混乱が続きました。

2000年にはArdent Softwareを買収し、多次元型エンジンなどを製品ラインナップに加えましたが、2001年にIBMに買収され、データベース技術とブランド、顧客ベースはIBMに引き継がれました。

その後の影響

Informixの元CEO、フィリップ・ホワイトは、証券詐欺などの罪で起訴され、有罪判決を受けました。Informixの事例は、技術力だけでなく、経営の重要性を示す教訓として語り継がれています。

Informixは、RDBMSの歴史において重要な役割を果たした企業であり、その技術は現在もIBMの製品に受け継がれています。その興亡は、ソフトウェア業界における技術革新と経営のバランスの重要性を物語っています。

参考文献

* Informix - Wikipedia

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