JAPAN (長渕剛のアルバム)

長渕剛13枚目のオリジナルアルバム『JAPAN』：日本と母への鎮魂歌

1991年12月14日、長渕剛の13枚目のオリジナルアルバム『JAPAN』がリリースされた。前作『JEEP』から約1年3ヶ月ぶりとなる本作は、長渕自身による全作詞・作曲、そして長渕、瀬尾一三、石塚良一の共同プロデュースという体制で制作された。特筆すべきは、レコーディングが初めて本格的に日本国外、ロサンゼルスで行われた点である。ロイ・ビッタンやケニー・アロノフといった現地のスタジオミュージシャンも参加し、国際色豊かなサウンドが完成した。

アルバム制作の背景：紅白歌合戦の騒動と母の病

アルバム制作の背景には、1990年末の第41回NHK紅白歌合戦での出来事が大きく影響している。ベルリンからの生中継で「親知らず」「いつかの少年」「乾杯」の3曲を演奏した長渕は、演奏時間の長さや、スタッフへの不満を口にしたことなどから、一部で批判を浴びた。しかし、長渕自身は、3曲の選曲には明確な意図があったと説明している。「乾杯」はNHKからの要望、「いつかの少年」は自身の音楽的アイデンティティを提示するもの、「親知らず」は東西ドイツ統一という歴史的転換期を迎えたドイツと、現状に疑問を持つ日本の現状を重ね合わせたものだったという。ベルリンでのレコーディング環境の劣悪さやスタッフとの意思疎通の困難さなども、彼の発言に影響を与えたとされる。

この紅白歌合戦での出来事以外にもう一つの大きな出来事があった。それは、長渕の母が末期癌を宣告され、モルヒネの副作用で認知症が進行、最終的には長渕自身を認識できなくなるという状況だった。母への深い愛情と別れを惜しむ思いが、アルバムに収録された「MOTHER」という楽曲に結実している。この曲は、認知症が進み、母が長渕自身を認識できなくなったという、辛い状況の中で書かれたものだ。

音楽性：日本への問いかけと普遍的な感情

『JAPAN』に収録された楽曲は、多様なテーマを扱っている。表題曲「JAPAN」では、当時の日本の現状、特に拝金主義やアメリカ追随への危惧を憂い、日本の進むべき道を問いかける内容となっている。一方、「MOTHER」は母への愛を歌い上げ、普遍的な親子の絆を描写している。「しゃぼん玉」は、長渕が出演したテレビドラマ『しゃぼん玉』の主題歌として、オリコンチャートで1位を獲得しミリオンセラーを記録した。その他にも、「東京青春朝焼物語」では地方から都会に出てきた若者への応援歌を、「気張いやんせ」では鹿児島弁を用いた、故郷への愛情と郷愁を表現している。

アルバム全体を通して、長渕の音楽性は、社会への鋭い批判と、人間の普遍的な感情が複雑に絡み合っている。アメリカでのレコーディングという環境も、彼の日本への視点をより鮮明にしている。

レコーディングとリリース

アルバムは、ロサンゼルスのスタジオで録音され、日本人ミュージシャンに加え、現地のミュージシャンも多数参加している。瀬尾一三との共同アレンジは、『LICENSE』、『NEVER CHANGE』に続く3度目であり、長渕の音楽世界を支える重要なパートナーシップであった。日本国外でのレコーディングは、単なる音質追求だけでなく、太平洋の向こう側から日本という国を客観的に見つめ直すという、長渕自身の表現者としての強い意志の表れでもあったと言われている。

1991年12月14日、カセットテープとCDの2形態でリリースされた『JAPAN』は、オリコンチャートで1位を獲得し、約97万枚という驚異的なセールスを記録。長渕剛のアルバム売上最高記録となり、彼の代表作の一つとして現在も高い評価を得ている。2006年には24ビット・デジタルリマスター盤もリリースされている。

後世への影響と評価

『JAPAN』は、長渕剛のキャリアにおいて重要な位置を占める作品であり、彼の音楽性やメッセージ性を象徴するアルバムとなっている。社会への鋭い批判精神、母への深い愛情、そして普遍的な人間性を描いた楽曲群は、時代を超えて多くのリスナーに共感を与え続けている。音楽評論家からも高い評価を受けており、長渕剛の最高傑作と評する声も多い。このアルバムは、長渕剛というアーティストの幅広さと深み、そして彼の音楽が持つ普遍的な力を改めて示すものとなっている。

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