K-219 (原子力潜水艦)

K-219（カー219）の沈没事故

K-219はソ連海軍に所属する667A号計画型弾道ミサイル原子力潜水艦で、NATOでは「Yankee I」と呼ばれる。この潜水艦は16基のR-27液体燃料ミサイルを搭載し、34発の核弾頭を装備していた。その活動中に発生した事故は、冷戦時代の潜水艦事故の中でも特に有名で、多くの議論を巻き起こした。

事故の経緯

1986年10月3日、K-219はバミューダの北東680マイルで哨戒を行っていたが、ミサイル発射塔内で爆発と火災が発生した。原因は、ミサイル用ハッチカバーのシーリングの破損により海水が流入し、ミサイルの液体燃料と化学反応を起こしたことに起因しているとされている。ソ連海軍はこの漏水が、近くにいた米国の原潜「オーガスタ」との衝突によるものだと主張したが、米海軍はその衝突を否定した。

K-219は過去にも同様のトラブルを経験しており、そのため一部のミサイル用ハッチカバーは既に溶接されていた。事故が発生した際、漏れた海水と液体燃料との反応が爆発を引き起こし、潜水艦のコントロールが失われた。

当時の兵装士官、アレクサンドル・ペトラチコフは、事態の悪化を防ぐためにミサイルを海中投棄しようと試みたが、爆発が生じてしまった。これにより、ミサイルと弾頭が海中に放出され、操艦や兵装に多大な被害を与える結果となった。

緊急対応と撤退

事故の際、K-219の副長イーゴリ・クルジン大佐ら乗組員は、原子炉の安全を確保すべく緊急浮上を決定した。原子炉区画に突入した若い水兵、セルゲイ・プレミーニンは、酸素不足と高温の中で原子炉を停止できる行動を取り、その結果として命を落とした。艦長イーゴリ・ブリタノフは、潜水艦の曳航を命じたが、その試みは失敗し、有毒ガスの漏出が艦内全体に広がった。

最終的に、ブリタノフ艦長は乗組員の総退去を命じ、K-219は沈没する運命にあった。1986年10月6日、潜水艦はハッテラス海域の底、約6,000メートルの深さに沈んでしまった。

坑魚と艦の発見

1988年にソ連の海底探査船がK-219を発見し、その状態を確認した際、艦は艦橋が折れた状態で海底に沈んでいた。弾頭を含むいくつかのミサイルは消失していたことが判明している。

影響とメディア

この事故は、ソ連の原潜運用に関する問題を浮き彫りにし、その後、書籍や映画としても描かれることとなった。特に、1997年に制作された映画『敵対水域』は、K-219の事故を題材としており、多くの注目を集めた。しかし、映画に描かれた内容については、艦長ブリタノフが事実として否定する場面もあった。

映画や書籍に関しては、ソ連政府はK-219の破損がオーガスタとの衝突によると主張しているが、米国はこの見解を一貫して否定している。K-219の事故は、冷戦時代の重要な事件の一つとして、いまだに多くの研究や議論を促すテーマとなっている。

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