KLT-40 (原子炉)

ロシアによって開発されたKLT-40シリーズは、主に船舶の動力源として設計された加圧水型原子炉システムです。このタイプの原子炉は、その堅牢な設計と比較的小型なサイズから、特に極海域で活動する原子力砕氷船や、商用原子力船といった特殊なニーズを持つ艦船において、信頼性の高いエネルギー供給を担ってきました。

KLT-40の初期の搭載例としては、原子力砕氷船としての機能に加え、コンテナ輸送能力も兼ね備えたユニークな船舶である「セブモルプーチ」が挙げられます。この船に搭載されたKLT-40は、135MWthの熱出力を発生させました。また、より純粋な原子力砕氷船であるタイミール級には、KLT-40Mと呼ばれる改良型が採用されており、こちらは171MWthへと熱出力が増強されています。これらの初期モデルでは、燃料としてウラン235が使用されており、その濃縮度は用途や設計によって30-40%から最大90%と、比較的高いレベルのものが用いられていました。これは、船内の限られた空間で最大限の出力を引き出すための設計思想に基づいています。

KLT-40シリーズは、その設計の柔軟性と実績が高く評価され、新たな用途にも展開されました。その最も注目すべき事例が、KLT-40Sと呼ばれる改良型原子炉の登場です。KLT-40Sは、世界初の水上原子力発電所として開発された「アカデミック・ロモノソフ」に搭載するために特別に設計されました。この水上原発は、電力網が未整備な遠隔地や沿岸地域への電力供給を目的としており、KLT-40Sはその心臓部を構成します。KLT-40Sの開発はOKBMアフリカントフが行い、製造はNMZが担当しました。

KLT-40Sには、これまでのシリーズからの重要な改良点がいくつかあります。特に燃料面での変更は特筆すべき点です。国際的な核拡散防止の取り組みに貢献するため、KLT-40Sでは濃縮度14.1%の低濃縮ウラン燃料が採用されました。これにより、燃料の核兵器転用リスクを低減し、民生利用における安全保障上の懸念を払拭することを目指しています。燃料の濃縮度を抑えつつも、KLT-40Sは十分な性能を維持しており、熱出力は150MWthを達成しています。この熱出力は、約35%の熱効率で電気出力約52MWに相当し、水上発電所として中小規模の需要に対応できる能力を持っています。

KLT-40およびその派生型であるKLT-40M、そして改良型のKLT-40Sは、ロシアにおける小型モジュール炉（SMR）技術、特に船舶用および可搬型原子力技術の重要な発展段階を示しています。強力な原子力砕氷船の動力源から、国際的な核不拡散基準に適合した燃料を用いる水上原子力発電所の基幹システムへと進化を遂げたこれらの原子炉は、厳しい運用環境下での信頼性や、多様なエネルギー供給形態への応用可能性を実証しています。船舶や洋上プラットフォームといった特殊な環境下での原子炉運用は、陸上設置型とは異なる設計上および安全上の要求を伴いますが、KLT-40シリーズはその課題に対応し成功を収めた事例として、世界の原子力技術開発において注目されています。

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