KM3NeT

KM3NeT（キュービックキロメーターニュートリノ望遠鏡）とは

KM3NeT（Cubic Kilometre Neutrino Telescope）は、地中海の深海に展開される次世代のニュートリノ望遠鏡プロジェクトです。このプロジェクトは、フランス、イタリア、ギリシャの3箇所に分散した数立方キロメートルに及ぶ巨大な検出器を設置し、宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノを観測することを目的としています。KM3NeTは、先行するニュートリノ望遠鏡プロジェクト（ANTARES、NEMO、NESTOR）の経験を基に、より高度な検出能力を目指しています。

KM3NeTの目的

KM3NeTの主な目的は、遠方の天体物理学的ニュートリノ源、例えば超新星残骸、ガンマ線バースト、衝突する星などから放出されるニュートリノを検出することです。また、宇宙の暗黒物質の探索にも貢献することが期待されています。特に、銀河内のニュートリノ源からのニュートリノの検出に焦点を当てています。この観測により、宇宙の謎を解き明かす手がかりが得られる可能性があります。深海に設置された何千もの光学センサーモジュールは、ニュートリノが水や岩と衝突した際に発生する微弱な光（チェレンコフ光）を捉え、これらのデータからニュートリノの情報を分析します。

KM3NeTの科学的利用

KM3NeTはニュートリノ観測だけでなく、海洋生物学、海洋学、地球物理学など他の科学分野の研究にも利用されます。深海環境や海底の長期的なオンライン監視のための機器も搭載されており、学際的な研究への貢献が期待されます。

KM3NeTの構成

KM3NeTは、複数のサブ検出器で構成されています。その中でも重要なのは、ARCA（Astroparticle Research with Cosmics in the Abyss）検出器とORCA（Oscillation Research with Cosmics in the Abyss）検出器です。

ARCA検出器: 高エネルギー宇宙ニュートリノの検出に最適化されており、TeVからPeVのエネルギー範囲のニュートリノを捉えることを目指しています。
ORCA検出器: ニュートリノ自体の特性を測定するために最適化されており、ニュートリノ素粒子物理学の研究に貢献します。GeV範囲の大気ニュートリノを観測します。

将来的には、約12,000個の耐圧ガラス球と約600本のケーブルから構成される予定です。現在の建設段階では、345本のストリング（ARCA検出器用に230本、ORCA検出器用に115本）が含まれます。各ストリングには18個のセンサー球が取り付けられており、海底に係留され、浮力によって支えられています。これらのセンサー球は、デジタル光学モジュール（DOM）と呼ばれ、それぞれ直径約43cmで、31個の光電子増倍管を含んでいます。DOMは光ファイバーネットワークを介して陸上のデータセンターに接続されています。

各サイトの特徴

KM3NeT-It (イタリア): 水深3,400mに位置し、ARCA検出器が設置されています。より広い間隔でDOMが配置されており、高エネルギーの宇宙ニュートリノの検出に特化しています。
KM3NeT-Fr (フランス): 水深2,475mに位置し、ORCA検出器が設置されています。センサーがより狭い間隔で配置されており、大気ニュートリノの観測に適しています。

建設の進捗

KM3NeTの設計はモジュール化されており、段階的に建設が進められています。2012年に、KM3NeT-FrとKM3NeT-Itサイトで海底インフラの建設が始まりました。プロトタイプのDOMは、先行プロジェクトであるANTARES望遠鏡で1年以上にわたるデータ収集に成功しています。2019年には、KM3NeT-FrサイトでORCA検出器の最初のストリングが設置されました。また、KM3NeT-Itサイトでは、ARCA検出器の最初のストリングが設置され、データの取得に成功しています。現在、ARCAとORCAの検出器は、建設の第2段階に入っています。

音響検出技術

SMOプロジェクトでは、音響検出（ハイドロフォン）が導入されています。これにより、水中のストリングの位置監視が可能になり、音波を利用した新しいニュートリノ観測方法も検討されています。

他のニュートリノ望遠鏡との関係

KM3NeTは、地中海の他のパイロットプロジェクト（ANTARES、NEMO、NESTOR）の経験に基づいて設計されています。ANTARESは北半球最大のニュートリノ望遠鏡であり、南半球ではIceCubeニュートリノ観測所が稼働しています。KM3NeTとIceCubeが連携することにより、全天をカバーするグローバルなニュートリノ天文台が実現します。

参考文献

Adrián-Martínez, S. (2016). “Letter of intent for KM3NeT 2.0”. Journal of Physics G, 43(8), 084001.
Adcock (2016). “KM3NeT: The next big thing in neutrino physics”. JPhys+.

外部リンク

公式ウェブサイト
KM3NeT YouTubeチャンネル
* INSPIRE-HEPでのKM3NeT実験記録

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