LC3

LC3（Low Complexity Communication Codec）は、フラウンホーファーIIS（集積回路研究所）とエリクソンが共同で開発した音声圧縮コーデックです。このコーデックは、Bluetooth 5.2で導入されたLE Audioの標準コーデックとして採用されており、従来のSBCコーデックと比較して、より優れた性能を発揮します。

LC3の概要

LC3は、当初Bluetooth補聴器での利用を想定して開発されましたが、その高い効率性から、音声通話や音楽鑑賞用のヘッドセットなど、一般的なオーディオアプリケーションにも適応できるよう設計されました。LC3は、ブロックベースの変換オーディオコーデックであり、単一チャンネルのPCMフレームを可変または固定のビットレートで圧縮します。圧縮技術には、LD-MDCT（低遅延修正離散コサイン変換）、分割ベクトル量子化、およびピラミッドベクトル量子化が用いられています。オーディオチャンネル数の上限は、実装されるプロファイルによって設定されます。

LC3の仕様書Version 1.0では、サンプリング周波数が8, 16, 24, 32, 44.1, および48kHzのストリームをサポートし、フレーム間隔は7.5ミリ秒と10ミリ秒に対応しています。これらの技術により、LC3は高い圧縮効率と低遅延の両立を実現しています。

Bluetooth Special Interest Group（SIG）とETSI（欧州電気通信標準化機構）が行った主観評価テストでは、LC3はSBC、G.722、そしてOpusといった他の音声コーデックと比較して、より高いオーディオ品質と優れたPLC（パケット損失補間処理）を提供することが示されました。ただし、このテストは主に音声（スピーチ）を対象としており、Opusに関しては不利な条件であったという指摘もあります。

LC3の用途

LC3は、Bluetooth 5.2規格の一部であるLE Audioコーデックとして採用されたことで、その低遅延特性を活かした新たな応用が期待されています。例えば、LE Audioの非同期転送やブロードキャスト転送と組み合わせることで、空港や公共施設で放送されるテレビの音声を、多数のヘッドセットへ同時に配信するといった利用方法が考えられます。これにより、公共の場での聴覚補助や情報提供がより便利になるでしょう。

さらに、LC3はLE Audio専用のコーデックではなく、aptXやLDACのように、Classic Bluetoothのオプションコーデックとして実装することも技術的には可能です。これにより、既存のBluetoothデバイスでもLC3の恩恵を受けられる可能性があり、今後幅広いデバイスで採用が進むことが期待されます。

LC3の利点

LC3の主な利点としては、SBCと比較して同じビットレートでより低遅延、高品質、そして低消費電力を実現できる点が挙げられます。また、同程度の音質であれば、SBCの半分のビットレートで済むため、バッテリー駆動のデバイスでの利用に適しています。これらの特性から、LC3はBluetoothオーディオの新たなスタンダードとなる可能性を秘めています。

LC3は、幅広いオーディオ用途に対応できる汎用性の高いコーデックであり、今後の技術発展や市場動向によって、さらにその応用範囲が広がることが期待されます。

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