La RiSCOPERTA

『la RiSCOPERTA』

日本のシンガーソングライター、KANが2018年にリリースしたアルバム『la RiSCOPERTA』（ラ・リスコペルタ）は、彼のセルフカバー・シリーズにおいて、弦楽四重奏という編成に特化した第2作目にあたる作品です。2018年10月10日に発売されたこのアルバムは、2017年春に発表された前作『la RINASCENTE』から、およそ1年7ヶ月ぶりとなるセルフカバー・アルバムとして届けられました。自身の音楽キャリアの中で生み出されてきた多様な楽曲たちが、クラシック音楽の室内楽編成の代表格である弦楽四重奏によって、新たな生命を吹き込まれています。

制作の舞台裏とプロモーション

アルバム制作の過程を垣間見ることができる貴重な映像が、所属レコード会社の公式YouTubeチャンネルにてトレイラーとして公開されました。この映像では、KAN自身が彼の複雑で緻密な楽曲を、弦楽四重奏という特定の編成のために採譜する際の集中力や、時に見せる苦悩の表情が捉えられています。さらに、実際にスタジオで行われたレコーディング風景も収録されており、ヴァイオリン二挺、ヴィオラ一挺、チェロ一挺という四つの楽器が織りなす音色がどのように録音されていくのか、その瞬間を追体験することができます。これは、単に作品を告知するだけでなく、アーティストが音を紡ぎ出す内的なプロセスや、それを現実のサウンドとして形にする技術的な側面をも示すドキュメンタリー的な要素を含んでおり、リスナーにとって作品への理解を深める一助となっています。

収録曲と音楽的アプローチ

『la RiSCOPERTA』には、全10曲が収録されています。これらの楽曲の多くは、KAN自身が作詞、作曲、そして弦楽四重奏のための編曲を手がけています。弦楽四重奏という編成は、非常に繊細かつ表現力豊かなサウンドを生み出すことが可能です。楽器それぞれの音色や、それらが絡み合うことで生まれるハーモニーは、楽曲のメロディラインや感情表現をより際立たせ、原曲の持つ魅力を引き出しつつも、全く異なる雰囲気を創出します。

本作の収録曲は、KANのキャリアの中から幅広く選ばれた自身のオリジナル楽曲が中心ですが、特筆すべき点として、洋楽の著名な楽曲のカバーも含まれていることが挙げられます。例えば、6曲目にはザ・ビートルズが1968年に発表した楽曲「Back in the U.S.S.R.」（作詞・作曲：ジョン・レノン&ポール・マッカートニー）が、そして8曲目にはアメリカのシンガーソングライターであるビリー・ジョエルが1993年にリリースした「Lullabye（Goodnight, My Angel）」（作詞・作曲：ビリー・ジョエル）が、それぞれ弦楽四重奏によるアレンジで収録されています。これらの異なるジャンルや時代背景を持つ楽曲が、同じ弦楽四重奏という土俵に乗せられることで、KANの音楽的なルーツや影響、そして彼自身の楽曲とこれらのカバー曲が持つ共通の「核」のようなものが浮かび上がってくるかのようです。

アルバムに収録された全楽曲は以下の通りです。

l'Addestramento dell'Arrangiamento
カレーライス
50年後も
Happy Time Happy Song
永遠
Back in the U.S.S.R. （作詞・作曲：ジョン・レノン&ポール・マッカートニー）
サンクト・ペテルブルグ
Lullabye（Goodnight, My Angel） （作詞・作曲：ビリー・ジョエル）
君はうるさい
今年もこうして二人でクリスマスを祝う

このアルバムは、既成の楽曲を新たな視点から捉え直し、異なる音色と響きによって再構築するセルフカバーという形式の面白さを体現しています。弦楽四重奏というミニマルでありながら表現力豊かな編成を通して、KANのメロディメーカーとしての資質や、楽曲が持つ普遍的な力が改めて示された作品と言えるでしょう。

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