M-3SIIロケット

M-3SIIロケット：日本の宇宙開発史に輝く挑戦

M-3SIIロケットは、日本の宇宙科学研究所（現・宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、ISAS）と日産自動車宇宙航空事業部（現・IHIエアロスペース）が共同開発した3段式固体燃料ロケットです。その最大の特徴は、世界でも類を見ない全段固体燃料ロケットでありながら、惑星間探査機を地球の重力を脱する速度で打ち上げることができた点にあります。

開発の背景には、1986年のハレー彗星探査における国際共同研究への参加がありました。既存のM-3Sロケットでは惑星間探査に必要な速度を達成できず、新たなロケットの開発が急務となりました。M-3Sを一部流用しつつ、主要部分は新設計され、1985年から1995年にかけて8機の探査機や人工衛星の打ち上げに成功しました。

特に、1985年に打ち上げられた「さきがけ」は、当時の常識を覆す挑戦でした。全段固体燃料ロケットによる地球重力圏脱出はほぼ不可能とされていた中、M-3SIIはこれを成し遂げ、世界中の航空宇宙関係者に衝撃を与えました。

M-3SIIは、海側に傾けたレールランチャーからの斜め打ち上げという独特の方法を採用していました。これは、無誘導方式の飛行マニューバーによるもので、積極的な誘導制御は行わず、ランチャーによる初期設定と誘導装置による微調整のみで済ませています。大型ロケットとしては珍しい手法であり、万一の失敗時にも被害を最小限に抑える効果もありました。

その外観も特徴的です。大型の補助ブースタやハンマーヘッド型のノーズフェアリングは、他のロケットにはない存在感を放ちます。さらに、「さきがけ」打ち上げ直前に判明した第一段目の能力不足を補うため、急遽追加されたスパイクノーズは、ロケットの打ち上げ能力向上に貢献しただけでなく、後々語り継がれる逸話にもなりました。記者会見でその役割を説明するよう求められた際、開発者は「どうですか、格好いいでしょう」と答えたというエピソードは、開発陣の自信とユーモアを感じさせます。

M-3SIIには、惑星間軌道投入用、準極軌道投入用、月軌道投入用の3種類のキックモーターがオプションとして用意されていました。これらを搭載することで、4段式ロケットとして運用することも可能でした。

開発においては、政治的な経緯から「第一段目の直径が1.4m」という制約がありました。この制約を守りながら、大型の補助ブースタと直径1.5mの第三段、さらに直径1.6mのフェアリングを搭載したM-3SIIの姿に、「これは詐欺だ！」と叫んだ官僚がいたという逸話も残っています。この制約は、後のM-Vロケットの開発にも影響を与えました。

8号機として打ち上げられた地球再突入実験機「EXPRESS」は、予定軌道投入に失敗しました。これは、ノーズフェアリング内重量がカタログ上の打ち上げ能力ギリギリであり、さらにキックモーターを搭載したことで、過去に例のない状況になったこと、そして、第三段を軌道に乗せず海上に落とすという前例のない飛翔マニューバーを採用したことなどが原因でした。

EXPRESSの打ち上げでは、軌道設計と飛翔制御の両面で余裕がなく、リスクの高い計画であったにも関わらず、文部省と通産省の共同プロジェクトであったため、強引に押し切られたという経緯があります。結果的に、機体の震動と誘導装置の燃料切れにより、衛星の近地点高度が計画値より大幅に低下し、地球を数周した後、太平洋に落下しました。機体は後にガーナで発見されましたが、その軌跡は謎を残したままです。

M-3SIIは、成功と失敗、そして数々のエピソードが詰まったロケットです。その挑戦の歴史は、日本の宇宙開発の歩みを象徴するだけでなく、技術者たちの情熱と困難を乗り越える力強さを物語っています。 M-3SIIの開発と運用は、日本の宇宙開発における重要なマイルストーンであり、後世へと語り継がれるべきものです。

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