MAVO

MAVO（マヴォ）は、日本のダダ運動における重要な先駆者として位置づけられる芸術家グループです。関東大震災発生の直前、1923年（大正12年）6月20日に、ドイツ・ベルリンから帰国した美術家、村山知義の呼びかけにより結成されました。

初期メンバーは、かつて未来派美術協会で活動した美術家・柳瀬正夢、詩人の尾形亀之助、画家の大浦周蔵と門脇晋郎といった面々でした。彼らは自らを「ダダイスト」ではなく、あえて「マヴォイスト」と称しました。グループ名の「マヴォ」の語源については、「同人の頭文字」や「撒き散らされた紙片の文字」など諸説ありますが、確定されていません。その後、岡田龍夫、牧寿雄、戸田達雄、後の漫画家・田河水泡となる高見沢路直、ロシアからの亡命画家ワルワーラ・ブブノワ、プロレタリア画家の岡本唐貴らが参加し、グループは拡大しました。

結成からわずか約2年後の1925年には活動を終えています。

活動の軌跡
マヴォの活動は、伝統的な芸術の枠にとらわれない、極めて実験的かつ挑発的なものでした。

1923年7月、浅草の伝法院で第1回展を開催。この際に配布されたパンフレットには、村山知義が起草した「マヴォの宣言」が掲載され、グループの思想が示されました。

同年8月には、二科展の落選作品を集め、公道を練り歩くという前代未聞の「二科落選歓迎移動展覧会」を企画し、実施を予告しました。これは新聞でも大きく報じられましたが、上野警察署からの命令により直前で中止となりました。

11月に開催された第2回展は、「街頭へ、広場へ、絶望へ、虚無へ、アトムの転換へ！」というスローガンを掲げ、美術館という従来の空間を避け、東京市内外の約20ヶ所の飲食店で同時開催するという斬新な形式をとりました。

翌1924年7月には、機関誌『マヴォ』を創刊。この雑誌は、絵画や彫刻といった狭義の美術だけでなく、演劇、建築、デザインなど多岐にわたるテーマを扱い、西洋の思想や理論の紹介も積極的に行いました。1925年の活動終了までに全7号が刊行され、内容だけでなく装飾においても、デザインにおける実験性が随所に見て取れます。特に第3号は、高見沢路直による癇癪玉をコラージュした表紙が問題視され、発禁・回収処分となりました。

関東大震災からの復興が進む1924年には、マヴォは建築団体に交じり「帝都復興創案展」に参加し、「マヴォ理髪店」や「葵館」といった実際の建築計画にも携わりました。同年10月、マヴォを含む新興芸術団体が集まって結成された「三科」の展開と連動し、マヴォの活動はさらに多様な領域へと広がっていきました。

多様な個性が集まったこのグループは、絵画よりもむしろ他の分野、特に立体作品（彫刻）、建築、広告・デザイン、演劇、ダンスなどに活動の重点を置きました。震災後のバラック設計から舞台美術、ポスター、彫刻、詩、文学に至るまで、その活動範囲は非常に広範でした。また、時にはトラックに乗ってパフォーマンスを行うなど、破天荒な行動でも知られ、当時からジャーナリズムの注目を集めました。これらの活動は、日本の前衛芸術運動史において確固たる位置を占めており、多くの研究対象となっています。

マヴォの活動は、1925年9月に終止符を打ちます。マヴォの中でも特に過激なメンバーとされた岡田龍夫らが三科展の会場で騒動を引き起こし、これを機に三科が解散。それに伴う形で、マヴォも活動を休止し、事実上の解散となりました。

マヴォは短命でしたが、その分野横断的な活動と革新的な表現は、日本の大正期芸術における重要な転換点を示すものとして、今なお評価されています。

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