ワルワーラ・ブブノワ

ワルワーラ・ブブノワ（Варвара Дмитриевна Бубнова, 1886年5月17日 - 1983年3月28日）は、ロシア帝国出身の美術家であり、教育者としてもその才能を発揮しました。

生い立ちと教育

サンクトペテルブルクの上流階級に生まれたブブノワは、幼少期から芸術に親しみ、ピアノと美術の教育を受けました。ロシアの偉大な詩人、アレクサンドル・プーシキンとは遠縁にあたります。1907年にはペテルブルク帝室美術アカデミーに入学し、1914年に卒業。その後は女子校の美術教師や博物館の研究員としてキャリアをスタートさせました。

ロシア・アヴァンギャルドと日本へ

ロシア革命前後には、前衛美術運動「ロバの尻尾」に参加し、ロシア・アヴァンギャルド美術の振興に貢献しました。ソ連建国後も、美術研究所の講師や学芸員を務めながら制作活動を継続。1921年、妹アンナの尽力により二科展に入選した油絵がきっかけとなり、翌1922年に母親と共に来日しました。

日本での活動

1924年からは早稲田大学文学部、1927年からは東京外国語学校でロシア語非常勤講師として教鞭を執り、日本のロシア語教育に大きく貢献しました。1927年には白系ロシア人のゴローフシチコフと結婚。しかし、第二次世界大戦中の1945年には、政府の命令により軽井沢への疎開を余儀なくされ、一時は厳しい状況に置かれました。戦後、早稲田大学にロシア文学科が再開されると教壇に復帰。1955年には北海道大学の夏期講座を主宰し、1956年からは日ソ学院の講師も務めるなど、教育者としての活動も精力的に行いました。

画家としての軌跡

来日当初は油彩画家でしたが、日本の新興画壇との交流を通じて版画やリトグラフといった表現方法にも挑戦しました。特に、戦後には棟方志功が主宰する日本版画院にも参加し、高い評価を得ました。また、挿絵画家や装幀家としても活躍し、その活動はソ連帰国後も続けられました。

その他の活動と晩年

ブブノワは、建築家のブルーノ・タウトが来日した際には、その語学力と教養を買われて通訳を務めたと伝えられています。1958年に「画業50年記念展」を終えた後、公職を退いてソ連に帰国。アブハジアのスフミに居を構え、ソ連美術家同盟会員として創作活動を再開しました。その後、トビリシ、スフミ、モスクワ、レニングラードで個展を開き、その才能を遺憾なく発揮しました。1979年に妹アンナがスフミで亡くなると、レニングラードに移り、1981年には生誕90周年記念展が開催されました。1982年には日本政府から勲四等宝冠章を贈られています。

イコン「総ての悲しむ者の慰藉」

2008年には、ブブノワが描いたイコン「総ての悲しむ者の慰藉」が発見されました。このイコンは、関東大震災で被災したニコライ堂に献納されたもので、前衛画家として知られるブブノワがなぜ伝統的なイコンを描いたのかは謎とされています。しかし、この作品は「アバンギャルドのイコンとして極めて重要な作品となる可能性がある」と評されています。

記念碑と遺産

2016年5月15日には、多磨霊園で妹小野アンナと共に功績を称える記念碑が除幕され、彼女たちの芸術と教育への貢献は今もなお語り継がれています。

ワルワーラ・ブブノワは、激動の時代を生き抜き、日露両国の文化交流に尽力した偉大な芸術家であり教育者でした。彼女の作品や活動は、今も多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索