ML-R

ML-R（Multi-Level Recording）は、株式会社TDKがアメリカのCalimetrics社と共同で開発した光ディスク技術であり、2001年に発表されました。この技術は、記録型CDと記録型DVDの中間的な位置づけを目指して開発され、既存のCD-Rの技術をベースにしつつ、大幅な容量の向上を目的としていました。

技術概要

ML-Rディスクは、物理的なサイズはCDと同じ直径12cmでありながら、その記録容量を大幅に増大させることに成功しています。この技術の核心は、レーザーの強度を8段階に変化させ、その各強度を3ビットのデータとして記録するという点にあります。これにより、CD-Rと比較して約3倍となる2GBのデータ容量を実現しました。これは、従来のCD-Rの記録方式では1ビットしか記録できなかったのに対し、ML-Rでは一度に3ビットの情報を記録できるため、同じ物理的な面積により多くのデータを記録できるという画期的な技術でした。

ドライブについては、ML-Rに対応したLSI（大規模集積回路）を搭載する必要があるものの、それ以外の基本的なメカニズムはCD-Rドライブから大きく変更する必要がないとされていました。このため、既存のCD-Rドライブ製造ラインを比較的容易に転用できるというメリットもありました。

CeBITでの発表とその後

ML-R技術は、2001年のCeBIT（ドイツのハノーバーで開催される情報技術見本市）で実物が発表されました。この発表では、標準的な12cmディスクに加え、より小型の8cmディスクや6cmディスクも展示され、その多様性が示されました。しかしながら、これらのディスクが実際に市場に投入されることはありませんでした。

発売が見送られた背景には、記録型光学ドライブの価格低下が大きく影響していると考えられています。ML-R技術が開発された当時、記録型DVDドライブの価格が急速に低下しており、より大容量のDVDが手軽に入手できるようになったことが、ML-Rの開発・市場投入を断念させる要因になったと推測されます。

ML-RWについて

ML-Rには、書き換えが可能な姉妹規格であるML-RWも存在します。ML-RWは、ML-Rの技術をベースにしつつ、データの書き換えを可能にした規格です。しかし、ML-Rと同様に、こちらも実際に市場に投入されることはありませんでした。

総括

ML-Rは、CD-RとDVD-Rの中間的な位置づけを狙った革新的な記録技術でしたが、市場投入のタイミングと価格競争の影響により、そのポテンシャルを十分に発揮することができませんでした。技術的には優れたものでありましたが、市場環境の変化により、その歴史は幻に終わりました。この技術は、光ディスク技術の歴史における、技術革新と市場ニーズの変動という、複雑な関係性を示す良い事例と言えるでしょう。

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