MZ-80

MZ-80シリーズ：パソコン黎明期の傑作たち

1978年、シャープはMZシリーズの礎となる8ビット・パーソナルコンピュータ、MZ-80Kを発表しました。これは、後に「パソコン御三家」と呼ばれることになるシャープの躍進の始まりであり、日本のパーソナルコンピュータの歴史において重要な位置を占めています。本稿では、MZ-80KからMZ-80Bまでの機種を、その特徴や技術的な側面、そして当時のコンピュータ業界における文脈を踏まえながら詳細に解説します。

MZ-80K：革新的な「オールインワン設計」と「クリーン設計」

MZ-80Kは、シャープ部品事業部によって設計された画期的なマシンでした。同社のMZ-40Kに続く機種ではありましたが、後のMZシリーズの礎を築いた実質的な元祖と言えるでしょう。

「オールインワン設計」により、CPU、メモリ、ディスプレイ、キーボードが一体となったコンパクトな筐体が実現しました。また、「クリーン設計」と呼ばれる、システムプログラムを最小限にする設計思想は、コスト削減と同時に、シンプルで分かりやすいシステム構成をもたらしました。これは、当時の高価なROM使用を避けるための工夫でもありました。

搭載されたZ80 CPUは2MHzと、当時の競合機に比べれば低クロックでしたが、「クリーン設計」による効率的な処理とDMA（ダイレクトメモリアクセス）割り込みの工夫により、実動作速度は同等の製品に匹敵しました。また、8253タイマによる単音発生機能も備えており、簡素ながら音響効果も楽しむことができました。

MZ-80Kは当初、半田付けが必要なセミキットとして発売され、後に完成品も販売されました。キーボードはマトリクス配列で、稀にキー入力の誤認識が発生することもありました。表示はテキストVRAMにディスプレイコードを書き込む特殊な方式で、大文字アルファベットのみという制限がありましたが、豊富なグラフィックキャラクターが用意されていました。内蔵データレコーダーは、独自の設計により1200Baudという当時の平均的な製品より高速な転送速度を実現していました。

MZ-80Kからの進化：MZ-80C、MZ-80K2、MZ-80K2E

MZ-80Kの後継機種として、MZ-80C、MZ-80K2、MZ-80K2Eが発売されました。

MZ-80C (1979年)：48KB RAM、タイプライター配列のフルキーボード、グリーンモニターなどを搭載し、MZ-80Kを大幅に強化。完成品として販売されました。
MZ-80K2 (1980年)：32KB RAM搭載のローエンドモデルで、完成品として販売されました。CRTの色やキーボードのデザインが変更され、より洗練された外観となりました。
* MZ-80K2E (1981年)：クリーンコンピュータ10万台突破記念として発売されたMZ-80K2の廉価版。コストダウンのため、一部部品や設計が簡素化されました。

これらの機種は基本設計はMZ-80Kを踏襲していましたが、メモリ容量の増加、キーボードの改良、価格の抑え込みなど、市場のニーズに応じた進化を遂げていました。

海外進出と国内向け改良：MZ-80A、MZ-1200

MZ-80A (1982年)は海外市場向けに開発され、24KB RAMを搭載。CRTCの改良により画面の乱れが解消され、ネガポジ反転機能などが追加されました。MZ-1200 (発売時期不明)はMZ-80Aを国内向けに改良した機種で、MZ-80Aで変更された点が、旧機種に近い仕様に戻されました。

MZ-80B：究極のMZを目指した集大成

MZ-80B (1981年)は、シャープ部品事業部が「究極のMZ」を目指して開発した機種です。4MHzの高速CPU、80カラム表示対応、64KB RAM、オプションによるグラフィック表示サポートなど、MZ-80Kからの進化は目覚ましいものでした。

MZ-80Bでは「クリーン設計」がさらに徹底され、本体ROMにはIPL（Initial Program Loader）のみが搭載されました。「モニタ」もIPLから読み込まれるようになり、システム全体が高度な柔軟性と拡張性を獲得していました。

データレコーダーはソフトウェア制御が可能になり、高速化（2000Baud）も実現しました。グラフィック表示はオプションでしたが、320×200ドット、最大2プレーン表示が可能でした。

MZ-80Bの後継機種はMZ-2000ですが、互換性はBASICプログラムに限定されていました。直系の後継機はMZ-2500です。MZ-80B2は、グラフィックRAMを標準搭載したモデルとして、事業部再編後も販売されました。

まとめ：日本のパソコン黎明期を彩ったMZ-80シリーズ

MZ-80シリーズは、日本のパーソナルコンピュータ黎明期において、技術革新と市場開拓に大きく貢献しました。「オールインワン設計」「クリーン設計」といった革新的な設計思想、そして、ユーザーニーズに合わせたモデル展開は、後のパソコン市場の発展に大きな影響を与えました。MZ-80シリーズは、単なる製品という枠を超え、日本のコンピュータ文化を形作った重要な存在と言えるでしょう。

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