MZ-800

シャープが1984年から1985年にかけて日本国外市場向けに展開した8ビットパーソナルコンピュータ、それがMZ-800です。同社のMZシリーズに属し、特に欧州市場におけるMZ-700の後継機として開発されました。日本国内では未発売であったため、国内向けのMZ-700後継機であるMZ-1500とは異なる設計思想を持っています。欧州ではホビー用途に加え、ビジネス利用にも耐えうるよう機能強化が図られました。

欧州市場での展開と特色

MZ-800は、欧州市場においてMZ-700の後継モデルとして登場しました。単なるホビーパソコンとしてではなく、ビジネス用途での実用性も視野に入れた強化がなされている点が、国内市場向けのMZ-1500と大きく異なります。この背景には、当時の欧州でビジネス向けOSとして人気の高かったCP/M|CP_Mが、サードパーティによってMZ-700に移植され、評価されていたことがあります。MZ-800では、純正のP-CP/M|CP_Mが標準で付属するようになり、クリーン設計であるMZシリーズの利点に加え、すぐにビジネスソフトウェアが利用できる点が大きな強みとなりました。特に西ドイツで高い人気を獲得し、1980年代中期に西欧で普及した後、市場開放が進む1980年代後期にはチェコスロバキア社会主義共和国を含む東欧諸国でも販売され、一定のシェアを確保しました。チェコスロバキアでは、西側からの輸入品でありながら一般の電気店で入手可能であったため、国内企業が製造したZX Spectrum互換機に次ぐ普及率を誇り、熱心なユーザーコミュニティによってZX Spectrumからのゲーム移植が盛んに行われました。

ハードウェアの特徴

MZ-800は日本国内では正規に販売されなかったため、国内での所有者は非常に少ない機種です。電源は220Vを前提としているため、日本国内で使用するには電源の交換や電圧変換が必要です。

表示能力の向上

MZ-800のハードウェアにおける最大の特徴の一つは、海外展開されたMZ-80K系統の機種として初めてビットマップグラフィック機能を標準搭載したことです。それまでの同系統機種はテキスト画面のみでしたが、MZ-800モードでは全てビットマップグラフィックで表示を行います。特に、640×200ドットの高解像度表示に対応し、MZ-80K系列では初めて80桁の文字表示が可能となりました。また、MZシリーズ特有のCPUがVRAMへ直接描画するシンプルな構造を維持しつつ、複数プレーンへの論理演算を伴う同時アクセス機能や、VRAMへの高速アクセスを可能にする書き込みバッファ、表示位置オフセットによる画面スクロール機能などを実装し、描画速度の低下を抑えています。

クリーン設計とMZ-700互換性

MZ-80K系統の基本思想を受け継ぎ、本体ROMにはモニタとローダのみが搭載されたクリーン設計です。ROMに格納されたモニタは、FDDやQDからの起動をサポートします。MZ-700シリーズは海外でも展開されており、MZ-800は海外版MZ-700との上位互換性を有しています。電源投入時の初期設定で海外版MZ-700と同じキャラクタセットをPCGに転送することで、MZ-700互換モードでの動作が可能となっています。MZ-800モードへの切り替えはシステムスイッチで行われますが、実際の起動プロセスでは、一度MZ-700モードでIPLメッセージを表示した後、システムをロードし、改めてMZ-800モードへ移行するかを選択する形になります。

ハードウェア仕様

MZ-700の後継機として、MZ-811（基本モデル）、MZ-821（データレコーダ内蔵モデル）の2機種が展開されました。外観は国内向けMZ-1500に似ていますが、内部構造は大きく異なり、ソフトウェア的な互換性はありません。MZ-1500がMZ-700を拡張した設計であるのに対し、MZ-800はカスタム設計されたCRTCの中にMZ-700互換モードを持たせる構造を採用しています。

共通する基本仕様は以下の通りです。

CPU: Z-80A (3.5469MHz)
ROM: 16KB (MZ-700用モニタ、MZ-800用モニタ、CG-ROM)
RAM: メイン 64KB、グラフィック用 V-RAM 16KB (最大32KB)
表示能力:
キャラクタ: 40桁×25行、PCGによる1000文字 (MZ-700モード時)
グラフィック: 320x200ドット4色 / 640x200ドット2色 (VRAM 16KB時)、320x200ドット16色 / 640x200ドット4色 (VRAM 32KB時)。パレット機能対応。
サウンド: SN76489搭載、3重和音+ノイズ
インターフェイス: CRT、プリンタ、拡張I/O、ジョイスティックポート×2 (ATARI仕様準拠)
外形寸法: 幅440mm × 奥行305mm × 高さ109mm
重量: 約4.3kg

ソフトウェアと周辺機器

MZ-800向けには、標準のシステムソフトウェアとしてテープ版の標準BASIC (1Z-016) や、ディスク版のS-BASIC (MZ-2Z046/MZ-5Z009)、そしてP-CP/M|CP_M80 (MZ-2Z047) などが供給されました。

周辺機器としては、カラーディスプレイ (MZ-1D19)、FDDインターフェイス (MZ-1E05)、QDインターフェイス (MZ-1E19)、クイックディスクドライブ (MZ-1F11)、5.25インチFDD (MZ-1F19)、外付けプリンタ (MZ-1P16)、64KBメモリボード (MZ-1R18)、RS232Cインターフェイス (MZ-1E24)、拡張VRAM (MZ-1R25)、データレコーダ (MZ-1T04)、拡張ユニット (MZ-1U06)、純正ジョイスティック (MZ-1X16) など、様々なオプションが提供されました。これらの周辺機器によって、MZ-800の機能や拡張性が高められていました。

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