Miss ZOMBIE

映画『Miss ZOMBIE』

2013年9月14日に公開された日本映画『Miss ZOMBIE』（ミス・ゾンビ）は、異才SABU監督が手掛けた意欲作です。本作は、監督にとって『幸福の鐘』以来10年ぶりとなる完全オリジナル脚本であり、同時に自身が初めて女優を主演に起用した記念碑的作品でもあります。主演には、本作が映画初主演となる小松彩夏が抜擢され、人間を襲わない性質を持つ謎めいた女性型ゾンビ、沙羅を演じています。キャッチコピー「生きているのは私たちか？それとも彼女か？」が示す通り、生者と死者の境界、そして人間の本質に深く問いかける作品です。

物語の始まり

物語は、ごく普通の幸福な家庭である寺本家に、一体のゾンビが「商品」として届けられることから始まります。そのゾンビの名は沙羅。彼女は一般的なゾンビとは異なり、人間を襲うことなく、むしろ従順な使用人として振る舞います。寺本家の妻である志津子と一人息子である健一は沙羅に一定の理解を示しますが、家に出入りする他の人々は沙羅を異質な存在として扱い、容赦ない虐待を加えます。言葉を発さず、ただ淡々と作業を続ける沙羅は、人間社会の残酷さや偏見を静かに受容しているかのようです。

平穏の崩壊と悲劇

沙羅が寺本家に溶け込みつつも、その存在は静かに日常を侵食していきます。そして、ある日突然、一家に悲劇が訪れます。愛する息子、健一が不慮の事故により溺死してしまうのです。深い悲しみに打ちひしがれた志津子は、ゾンビである沙羅に一縷の望みを託します。息子をゾンビとして蘇らせてほしいと懇願する志津子。沙羅は志津子の願いを聞き入れ、健一の首筋に噛みつこうとします。その瞬間、沙羅の脳裏に人間だった頃の鮮烈な記憶が蘇り、物語は予期せぬ方向へと転換していきます。

作品の特徴と評価

『Miss ZOMBIE』は、極めて抑制された演出と、セリフに多くを頼らない映像表現が特徴です。無垢でありながらも異質な存在であるゾンビ・沙羅を通して、家族の絆、生命倫理、そして人間の尊厳といった普遍的なテーマが静かに、しかし鋭く描かれます。ゾンビ映画というジャンルでありながら、ホラー的な要素よりも、むしろ静謐で詩的な雰囲気を持った作品として仕上がっています。

本作は国内外で高い評価を獲得しました。特に、フランスで開催される第21回ジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭では、日本作品としては『仄暗い水の底から』（中田秀夫監督）以来11年ぶりとなるグランプリを受賞する快挙を達成しました。また、ポルトガルで開催された第34回ポルト国際映画祭でも日本映画として初めてグランプリに輝くなど、主要な国際ファンタスティック映画祭で最高賞に輝き、その芸術性が広く認められました。その他、第13回ダッカ国際映画祭ではコンペティション部門脚本賞を受賞しています。

キャスト・スタッフ

本作を彩る個性豊かなキャストとスタッフは以下の通りです。

キャスト
沙羅：小松彩夏
志津子：冨樫真
健一：大西利空
駿河太郎
芹澤興人
山内圭哉
寺本：手塚とおる

スタッフ
監督・脚本・原案：SABU
製作：熊澤芳紀、佐竹一美
プロデューサー：吉田憲一、宇田川寧
ラインプロデューサー：的場明日香
撮影：相馬大輔
照明：三善章誉
録音：山田幸治
ヘアメイク：内城千栄子
衣裳：岡本佳子
編集：相良直一郎
音響効果：渋谷圭介
特殊メイク：石野大雅
ポストプロダクションプロデューサー：篠田学
スクリプター：村松愛香
キャスティング：田端利江
助監督：塩崎遵
助監督応援：平林克理、成田啓吾
* 製作担当：堀田剛史

まとめ

『Miss ZOMBIE』は、ゾンビという非現実的な存在を借りながら、人間の感情、倫理、そして社会の暗部を静かに浮き彫りにする作品です。小松彩夏が演じる沙羅の無言の存在感が観る者に強い印象を残し、SABU監督の新たな境地を示す一作として、国内外で高く評価されています。悲劇を経て、生と死、人間と非人間の境界線が曖昧になる中で描かれる物語は、観る者自身に「生きている」とは何かを深く問いかけます。

もう一度検索