NGC 4755

NGC 4755は、南天の星座であるみなみじゅうじ座に位置する、光り輝く散開星団です。その類まれなる美しさから、「宝石箱（The Jewel Box）」というロマンチックな愛称で広く知られています。この星団は、新一般カタログ（NGC）においては4755番として登録され、その他の天体カタログではCaldwell 94やMelotte 114としても記載されています。

この星団は、みなみじゅうじ座のβ星（ベータ星）から見て南東の方向に位置しています。約100個ほどの若い星々が集まって形成された、比較的小規模ながらも密度の高い星団です。NGC 4755の最大の特徴は、その色彩の豊かさとコントラストにあります。星団の中心近くには、寿命の終わりに近い段階にある赤色超巨星が一つ存在し、これが星団全体の印象的なアクセントとなっています。この赤く輝く巨星を取り囲むように、誕生して間もない青白く光る恒星が数多く集まっています。青白い星々の鮮やかな輝きと、中央の赤色星の暖かみのある光の対比は、あたかも様々な色と輝きを持つ宝石が箱の中に詰め込まれているかのようであり、これが「宝石箱」という愛称の由来となりました。星団全体の広がりは、見かけの大きさではなく実際の空間的な広がりとして約20光年に及びます。

地球からNGC 4755までの距離は、約6,400光年と推定されています。ただし、この距離の測定は天文学における一般的な課題であり、観測方法や解析手法によって若干異なる値が示されることもあります。そのため、この数値は現在の最も有力な推定値の一つとして理解されています。

この美しい星団が発見されたのは、18世紀半ばのことです。フランスの天文学者であるニコラ・ルイ・ド・ラカーユが、1751年から1752年にかけて南アフリカに滞在し、南天の星図作成のための観測を行っていた際に発見しました。ラカーユは、この星団をみなみじゅうじ座の一部としてカタログ化し、みなみじゅうじ座のκ星（カッパ星）として登録しました。この発見の経緯から、現在でも「みなみじゅうじ座κ星星団（κ Crucis Cluster）」と呼ばれることがあります。

「宝石箱」という現在最もポピュラーな愛称は、イギリスの天文学者であるジョン・ハーシェルによって名付けられました。ジョン・ハーシェルは、有名な天文学者ウィリアム・ハーシェルの息子であり、彼自身もまた卓越した観測者でした。特に南天の観測に力を入れ、彼の観測記録の中で、この星団の色彩の美しさを「宝石箱」に例えて表現したことが、この愛称の始まりとされています。彼の感性豊かな表現が、多くの人々にこの星団の魅力を伝える一助となりました。

NGC 4755は、南半球でなければ観測が難しい天体ですが、その美しい姿は天体写真の被写体としても非常に人気があります。小さな望遠鏡でも個々の星を見分けることができ、双眼鏡でも星が集まっている様子を確認することができます。

もう一度検索