NSU・ヴァンケルスパイダー

NSU ヴァンケルスパイダー：世界初のロータリーエンジン搭載市販車

NSU ヴァンケルスパイダー（NSUスパイダーとも呼ばれる）は、1964年、NSU社によって生み出された画期的な一台です。その最大の特徴は、世界で初めてロータリーエンジンを搭載した市販乗用車であった点にあります。この革新的なモデルは、自動車史に新たな1ページを刻むこととなります。

美しいボディと優れた走行性能

1964年のフランクフルトモーターショーで初公開されたスパイダーは、1959年から販売されていたシュポルト・プリンツの2ドアクーペをベースに、ベルトーネ（フランコ・スカリオーネ）がデザインを手掛けたオープンモデルです。洗練されたスタイリッシュなボディは、その後のスポーツカーデザインにも大きな影響を与えました。

ベース車両をオープン化させるにあたり、前後重量配分の最適化を図るため、ラジエーターをフロントへ移設。これに伴いフロントグリルが新設され、35リッターの大型燃料タンクもフロントに配置されました。さらに、安全性と動力性能の向上を目指し、前輪にはディスクブレーキが採用されました。

搭載されたのは、フェリクス・ヴァンケルの発明によるロータリーエンジン。シングルローター500ccで、初期型は50馬力/5,500rpm、後期型では54馬力/6,000rpmの出力。ベースとなったシュポルト・プリンツの空冷2気筒583cc 30馬力と比較すると、約2倍のパワーを誇ります。

ロータリーエンジンの特徴であるスムーズな回転上昇は、スパイダーにおいても顕著でした。メーカー公表値のレブリミット6,000rpmを容易に超え、7,000rpmに到達することも可能でした。この高い回転性能により、0-100km/h加速はカタログ値15.7秒を上回る14.5秒を記録したとされています。

ロータリーエンジンの課題と商業的成功

NSU製のロータリーエンジンは、オイル消費の多さやアペックスシールの磨耗といった問題を抱えていました。これらの課題は、後継モデルであるRo80で深刻なトラブルとして顕在化し、NSU社は1969年にアウディに吸収合併されます。しかし、スパイダーは実験的なモデルという位置づけであり、1967年までに2,375台と生産台数が少なかったため、Ro80のような大規模な問題には発展しませんでした。

レースでの活躍

1966年から1967年にかけて、アル・オジェーがロールバーとレーシングタイヤのみを装着したヴァンケルスパイダーでSCCAスポーツカーレースに参戦。2シーズン連続でシリーズ通算2位を獲得し、ロータリーエンジン搭載市販車初のレース参戦を果たした人物として記録されています。

日本での展開

中央自動車、安全自動車といった当時の代理店を通じて、日本にも輸入され、外車ショーなどにも展示されました。日本の自動車ファンにも、その魅力が紹介されたのです。

まとめ

NSU ヴァンケルスパイダーは、ロータリーエンジンという革新的な技術を搭載した、世界初の市販車として、自動車史にその名を刻んでいます。その美しいデザイン、優れた走行性能、そしてレースでの活躍など、様々な側面から魅力あふれる一台です。オイル消費などの課題はあったものの、その存在は、ロータリーエンジン技術の発展に大きく貢献しました。希少な名車として、現在も高く評価されています。

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