NSU

NSU：栄光と挫折の歴史　～オートバイからロータリーエンジンへ～

1873年、ニット編み機メーカーとして誕生したNSU（ネッカーズルム・シュトリックマシーネンファブリック）。その社名は、ドイツ南部のネッカー川とズルム川の合流地点であるネッカーズルムに由来しています。当初は編み機製造に携わっていましたが、1892年には事業を転換し、オートバイ製造へと舵を切り、世界的な二輪車メーカーとしての地位を確立しました。ホンダに世界生産台数首位の座を譲るまで、NSUのオートバイは世界中で高く評価されていました。

1905年には自動車製造にも進出し、新たな挑戦をスタートさせます。しかし、1932年には自動車部門をフィアットに売却。その後、第二次世界大戦中には、無限軌道オートバイとも言える革新的なケッテンクラートを開発しました。

戦後、NSUは1957年に小型車「プリンツ」を発表し、自動車製造を再開。社名もNSU Automobil AG（後にNSU Motorenwerke AGに変更）となりました。そして、1964年、世界に衝撃を与える出来事が起こります。NSUは世界初のロータリーエンジン搭載車「ヴァンケルスパイダー」を発売したのです。このロータリーエンジンの技術は、のちに日本のマツダ（当時東洋工業）に提供されることになります。

NSUの技術革新はさらに続きます。1967年には、世界初のロータリーエンジン搭載セダン「Ro80」を発表し、自動車業界に新たな地平を切り開きました。しかし、Ro80はローターハウジング内壁に波状磨耗を起こす「チャターマーク」という深刻なエンジントラブルに見舞われ、多くのクレームが発生。経営に大きな打撃を与えました。

Ro80のレシプロエンジン版である「K70」の発表を目前に控えた1969年、NSUはフォルクスワーゲン（VW）傘下に入り、アウトウニオンに吸収合併され、AUDI NSU AUTOUNION AG（現在のアウディ）となりました。K70はVWブランドで発売され、Ro80は1977年に生産中止。NSUブランドの自動車は歴史の幕を閉じました。オートバイ製造は、1964年の「マキシ」と「プリマ」の生産終了をもって撤退しています。

NSUの物語は、革新的な技術と、その技術がもたらした苦悩、そして時代の波にのまれた企業買収という、複雑な要素が絡み合ったドラマです。世界に先駆けたロータリーエンジン技術という輝かしい功績を残しながらも、その技術の未熟さゆえに経営危機に陥り、歴史の表舞台から消えていったNSUの歴史は、現代の企業経営においても貴重な教訓を与えてくれるでしょう。なお、1985年にはアウディの子会社としてNSU GmbHが設立されています。

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