NebuAd

NebuAdとは：行動ターゲティング広告の光と影

NebuAdは、かつてインターネット広告業界で注目を集めた企業でした。シエラ・ベンチャーズとメロ・ベンチャーズという2つの投資会社からの出資を受け、カリフォルニア州レッドウッドシティに本社を構え、ニューヨークとロンドンにも事務所を展開していました。

ISPとの連携による行動ターゲティング

NebuAdは、[インターネットサービスプロバイダ]と提携し、その顧客のウェブサイト閲覧行動を分析することで、より効果的なターゲット広告の配信を目指していました。ISPのネットワーク内に専用のハードウェアを設置し、ユーザーの通信内容を分析するシステムを構築していました。このシステムは、各デバイスで5万人のユーザーをモニタリングできる能力を持っていました。

ユーザーは、NebuAdの情報収集とターゲット広告をオプトアウトする選択肢がありましたが、そもそもISPからNebuAdにデータが送信されることを阻止する方法はありませんでした。ISPは、顧客のインターネット通信をすべてルーティングする立場にあるため、ディープパケットインスペクション（DPI）を利用して、消費者の通信を詳細にモニタリングすることが可能でした。

NebuAdは、この分析を通じて顧客の興味関心を把握し、より関連性の高い広告を配信すると主張しました。プライバシーポリシーでは、機密性の高い個人情報（医療情報、人種、宗教、性的指向など）は収集・利用しないとしていましたが、収集された情報は米国内のサーバーで保管・処理されるため、政府機関からの開示要求に応じる可能性も示唆されていました。

サービス概要

NebuAdのサービスは、主に3つの要素で構成されていました。

1. ISP設置のハードウェア: ウェブページにコンテンツを挿入する機能を提供します。
2. 遠隔サーバー複合体: ユーザーのインターネット通信を分析・分類します。
3. 広告ネットワーク: ターゲット広告を掲載します。

このシステムにより、NebuAdはユーザーのウェブ閲覧履歴、検索語句、クリック数、閲覧時間などを分析し、詳細なユーザープロファイルを構築していました。NebuAdのCEOは、当初800種だった興味関心の分類を、将来的に数千まで拡大する計画を語っていました。

ユーザーからの懸念とプライバシー問題

しかし、NebuAdのサービスは一般社会から、そしてアメリカ議会からも大きな懸念を引き起こしました。ユーザーは、意図しないcookieが読み書きされる、Googleへの接続が遅くなるなどの問題に直面し、スパイウェア感染と誤認するケースも発生しました。

プライバシー保護団体は、NebuAdのデータ収集方法、オプトアウトの不完全さ、第三者企業がインターネット通信を操作することに対する監査体制の不備などを批判しました。また、NebuAdが取引先のISPを明らかにしない点や、米国の通信傍受法に抵触する可能性も指摘されました。

企業との軋轢とオプトアウト問題

ISPの従業員の中には、NebuAdのDPIハードウェアを回避するためにルーティングを再構築しようとする動きもありました。また、NebuAdのサービスが「オプトイン」ではなく「オプトアウト」方式であることが問題視され、ユーザーが実際にモニタリングを停止できるのかどうかについて疑問の声があがりました。エンジニアによる検証の結果、モニタリングを完全にオプトアウトする手段はなく、データは常に収集されていることが判明しました。

偽造パケットと広告上書き

さらに、NebuAdのデバイスは、GoogleやYahooへのウェブページ閲覧要求に対応するデータストリームに偽造パケットを注入し、ユーザー端末にcookieを作成することが明らかになりました。また、NebuAdが他社の広告を上書きしたり、ウェブページに広告を挿入する懸念も浮上しました。

Claria社との関連性

NebuAdの一部上層部社員は、以前広告会社Claria Corporationに勤務していました。Claria社は、広告ソフトウェア「Gator」で知られており、NebuAdとの関連性が指摘されましたが、NebuAdはこれを否定しました。

その後の展開：「Insight Ready」「Red Aril」として

米国での事業閉鎖後、NebuAdの英国部門は「Insight Ready」と名称を変えて運営を続けました。その後、「Crimson Tangerine」に社名を変更し、現在も事業を継続しています。

また、NebuAdの元共同設立者であるKira Makagonは、「Red Aril Inc.」という企業を設立し、NebuAdの技術と資産を買収しました。Red Arilは、NebuAdと同じ開発チームを使用していると記録されています。

両社のウェブサイトに掲載されているオプトアウトの文言やURLのフォーマットが類似していることから、Red ArilとCrimson Tangerineは実質的に同一企業である可能性も指摘されています。

パートナー企業と事業中断

NebuAdと提携していたISP企業の中には、Broadstripe、Decaturnet Internet Services、Eastern Oregon Net, Inc. (EONI) などがありましたが、多くがプライバシーに関する懸念や契約内容の見直しにより、NebuAdとの提携を中止または一時中断しました。特に、Charter Communications、Embarq、CenturyTel、Bresnan Communicationsなどの大手ISPが相次いでNebuAdとの契約を解消したことは、NebuAdの事業に大きな打撃を与えました。

まとめ

NebuAdは、行動ターゲティング広告の可能性を示した一方で、消費者プライバシーに関する深刻な問題を提起しました。その事業は、技術的な革新性と倫理的な問題点の両面を浮き彫りにし、今日のインターネット広告業界におけるプライバシー保護の重要性を再認識させる事例となりました。

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