Nothing at all to lose

浅川マキ 『Nothing at all to lose』：国際的なコラボレーションが生んだ23作目のアルバム

1988年12月21日に発表された浅川マキの通算23作目にあたるアルバム『Nothing at all to lose』は、彼女のキャリアの中でも国際色豊かな共同制作が実現した注目すべき作品です。

本作の大きな特徴は、アメリカの著名なファンクバンド、ルーファス（Rufus）の初代メンバーとして知られるベーシストのボビー・ワトソン（Bobby Watson）、ギタリストのトニー・メイデン（Tony Maiden）、そしてドラマーのアンドレ・フィッシャー（Andre Fischer）といった実力派ミュージシャンがレコーディングに参加している点です。彼らはチャカ・カーンを擁したルーファスで数々の名曲を生み出しており、そのグルーヴ感溢れる演奏が、浅川マキの持つ独特の世界観と融合しています。

さらに、日本からはジャズシーンで活躍するサックス奏者であり、作曲家としても知られる本多俊之が参加。彼の洗練されたサウンドが、アルバムに多様な色彩を加えています。これらの才能溢れるミュージシャンたちが一堂に会し、唯一無二の音楽空間を創り上げています。

アルバムのブックレットには、興味深い特記事項が掲載されています。作詞家であるジョン・ソルト（John Solt）による詩「HEAVEN TO HELL (AND BACK AGAIN)」が収録されているのですが、この詩はアルバム本編では歌われていません。しかし、浅川マキ自身の「（注）このソルトさんの詩、このアルバムでは歌わなかったが、あえて載せた。マキ」という注釈と共に敢えて掲載されており、彼女の表現に対するこだわりや、作品に込めたメッセージの深さを感じさせます。

収録曲は全9曲。

Side A
見えないカメラ
作詩：浅川マキ
作曲：Bobby Watson
英語詩：太田恵子
TOKYOアパートメント
作詩：浅川マキ
作曲：本多俊之
KALEIDOSCOPE
作詩：John Solt
作曲：Bobby Watson
明日、大丈夫
作詩：浅川マキ
作曲：Tony Maiden

Side B
アメリカの夜
作詩・作曲：浅川マキ
※同名アルバム収録のバージョンとは異なります。
NOTHING AT ALL TO LOSE
作詩：John Solt
作曲：Bobby Watson
日本語詩：浅川マキ
LOVE TIME
作詩：浅川マキ
作曲：Bobby Watson
英語詩：太田恵子
向こう側の憂鬱 (II)
作詩：浅川マキ
作曲：本多俊之
トレモロ
作詩：浅川マキ
作曲：Tony Maiden

タイトルトラックである「NOTHING AT ALL TO LOSE」や、ジョン・ソルトが作詩を手がけた「KALEIDOSCOPE」などが収録されており、多様な音楽性が凝縮されています。「アメリカの夜」は、かつて発表された同名アルバムに収録されているバージョンとは異なるテイクが収められており、聴き比べも楽しめるでしょう。

このアルバムに参加した主要な演奏者は以下の通りです。

浅川マキ - Vocals
BOBBY WATSON - Bass, Keyboards
TONY MAIDEN - Guitar, Vocals
本多俊之 - Alto & Soprano Sax, keyboards & Piano
ANDRE FISHER - Drums, Vocals
植松孝夫 - Tenor Sax
横山達嗣 - Percussion
鳥山敬治 - Synthesizer Programmer
* JOHN SOLT - Vocals

また、この作品は後年リリースされた浅川マキのコンピレーション・アルバムにも再収録されています。Track 1「見えないカメラ」とTrack 2「TOKYOアパートメント」は『DARKNESS III』のDISC 2に、Track 9「トレモロ」は『DARKNESS II』のDISC 2にそれぞれ収められています。これらの再録情報からも、本作の楽曲が浅川マキの作品群の中で重要な位置を占めていることが伺えます。

制作は、プロデューサーの橋本恵夫、中曽根純也、エグゼクティブプロデューサーの石坂敬一をはじめ、多くのエンジニアやデザイナーが携わりました。レコーディングはToshiba EMI 3rd Studioで行われ、企画制作はせなまる舎が担当しています。

『Nothing at all to lose』は、浅川マキの孤高の表現者としての魅力と、国内外のトップミュージシャンとの共演が生み出した刺激的な化学反応を堪能できるアルバムと言えるでしょう。

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