ONE (浅川マキのアルバム)

『ONE』浅川マキ

1980年4月5日にリリースされた浅川マキの通算11枚目、オリジナルとしては7枚目にあたるアルバム『ONE』は、彼女のディスコグラフィーの中でも特に異彩を放つ作品として知られています。本作は、浅川マキが日本のジャズシーンで活躍する才能豊かなミュージシャンたちと深く交流し、共に音楽を創造した結晶と言えるでしょう。

制作背景と音楽性

アルバム制作の中心となったのは、ピアニストの山下洋輔、トランペット奏者の近藤等則といった、当時の日本のジャズ界を牽引していた面々です。彼らをはじめとする一流の演奏家たちとのセッションは、主に新宿の伝説的なライブハウス「ピット・イン」などで行われました。このライブ空間特有の緊張感と熱気は、アルバムのサウンドに直接的に反映されています。

『ONE』の音楽的特徴として最も重要なのは、その即興性にあります。A面のごく一部の楽曲を除き、ほとんどの演奏が事前に定められた楽譜なしに行われています。ミュージシャンたちは、浅川マキの歌声やその場の雰囲気に触発され、互いの音に呼応しながら瞬時に音楽を紡ぎ出していきました。このような手法は、まさにジャズの真髄とも言える相互作用と創造性を際立たせています。アルバムジャケットの裏面に記された「PLAY IT LOUD !」というメッセージは、この生々しくダイナミックなサウンドを、リスナーに最大限の音量で体験してほしいという制作側の願いを示唆しているかのようです。

収録曲の紹介

本作を構成する楽曲も、多岐にわたる表情を見せています。

Side A

午後
作詩：浅川マキ／作曲：山下洋輔
あの男がピアノを弾いた
作詩・作曲：浅川マキ
都会に雨が降るころ
作詩：浅川マキ／作曲：山下洋輔
For M
作詩：浅川マキ／作曲：山下洋輔

「For M」は、アメリカのジャズグループ、アート・アンサンブル・オブ・シカゴのベーシストであるマラカイ・フェイヴァーズに捧げられた楽曲です。

Side B

PIGNOSE と手紙
作詩・作曲：浅川マキ

Side Bには浅川マキ作詞・作曲による「PIGNOSE と手紙」が1曲のみ収められています。この楽曲は17分を超える長尺であり、アルバム全体の約半分を占める大作です。「PIGNOSE」とは携帯型の楽器用アンプであり、ライナーノーツには「ちょうど手のひらに乗る大きさの四角いスピーカー」と描写されています。

参加ミュージシャン

浅川マキのヴォーカルを中心に、本作には豪華な演奏家が集結しました。

浅川マキ - Vocal
山下洋輔 - PIANO
川端民生 - BASS
近藤等則 - TRUMPET, SMALL TOYS, PIGNOSE AMP, etc.
山内テツ - E.GUITAR

それぞれのミュージシャンが持つ個性と技術が、即興という手法を通して混ざり合い、唯一無二のサウンドスケープを創り上げています。

スタッフと制作環境

本作は、STUDIO TAKE ONEと新宿ピット・インで録音されました。制作スタッフには、プロデューサーとして柴田徹、谷古宇広光、関根由起子、吉野金次、ディレクターとして永野久、録音・ミキシング・エンジニアとして吉野金次、アシスタント・エンジニアとして水谷照也、ピート、アートディレクターの板垣麟、デザイナーの前原由紀夫らがクレジットされています。この実験的でありながらも完成度の高い作品は、多くの関係者の尽力によって世に送り出されたのです。

このアルバムは、浅川マキの表現者としての新たな側面を切り開き、日本のジャズ・クロスオーバーシーンにおける重要な記録の一つとなっています。

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